カーブを高速で通過するのに必要不可欠な「振り子」車両。
パイオニアである381系「やくも」をはじめ、改良された振り子装置を搭載する2000系「南風(気動車)」、883系「ソニック」など、現在では非常に沢山の振り子電車が走るようになりました。
ただ、この振り子機構は乗り物酔いしやすい点が弱点だとされてきました。
特に初期の振り子機構(381系)でそれが顕著で、「ぐったりはくも」なんて呼ばれる始末。
同車では「振り遅れ」や「揺り戻し」と呼ばれる自然慣性では出ない不自然なローリング運動が発生します。
具体的には、カーブを曲がると中の振り子のころが一気にそっちへ傾き、ある程度まで傾いていた車両が一気に傾くため、不自然な動きになって乗り物酔いを起こしやすい……
…と、これまでの通説では説明されてきました。
しかしなんと近年、振り子車両が酔いやすいのは、実は左右の低周波振動が要因という話が出てきています。
具体的には、0.3Hzあたりの周波数が酔いに影響しているという説があるのです。
真犯人は低周波振動?
興味深い実験があります。
2002年10~12月、鉄道会社の協力を得て、8線区・14形式の在来線特急電車(振り子8形式、普通車両6形式)に乗車する約4000人の乗客に「列車に乗ってから気分が悪いかどうか」の調査を実施。
1986年に調査された際の振り子車両(おそらく381系)では、26.1%の乗客が乗り物酔いを感じていましたが、
今回2002年の制御式振り子装置車両での調査でも「気分がやや悪い・かなり悪い・極めて気分が悪い」とした乗客はあわせて27.1%程度でした。
問題なし | やや悪い | かなり悪い | きわめて悪い | |
---|---|---|---|---|
振子式車両 (2,721人) | 72.9 | 23.5 | 2.3 | 1.3 |
非振子車両 (1,156人) | 82.3 | 16.5 | 1.0 | 0.3 |
つまり、自然振り子・制御式振り子のどちらでも、あまり乗り物酔いの程度に変わりはないことがわかります。
それ以外にも様々な調査を行った結果得られた結論は、
・乗り物酔いを発する原因は0.25~0.32Hzの低周波左右振動であること
・船酔いの問題とされる低周波上下振動についてはあまり乗り物酔いに影響はなかったこと
・女性や若年層の方が乗り物酔いしやすいこと
でした。
振子車両では振子装置から発する低周波数の振動が大きく、これが原因で乗り物酔いを引き起こすと結論づけられたのです。
自然振子は酔いやすい?
このように、データだけを見ると振り子電車ならどのような形式でも酔いやすいとされているのに、何故381系などの自然振子式だけが「酔いやすい」とされてきたのでしょうか。
酔いの原因は0.25~0.32Hzの低周波振動と先ほど書きましたね。では、低周波振動を引き起こす根本的な原因は何でしょうか?
どうも、線路側が要因なようです。
1970年に調査されたこちらの資料によると、低周波振動が出る原因は
・レール継ぎ目部に落ち込みがある場合(ガタンと揺れるところ)
・レールに波状摩耗がある場合
とされています。
つまり、
・レール継ぎ目部に落ち込みが頻出する(=地盤が弱い、ポイントが多い)
・波状摩耗が出る(=車輪に無理をさせているか、カーブなどが多い)
ような路線が当てはまるといえます。
振り子電車はカーブの多い路線に導入されるからそこはともかくとして、地盤が弱いところ、ポイントが多いところ、そして車輪側のメンテナンスがあまり行き届いていないようなところでは、より乗り物酔いしやすいといえるのではないでしょうか。
総評
乗り物酔いしやすい・しにくいには当たり前ながら個人差があります。
「振り子電車は全く平気でも、1度しか傾かないN700系では酔ってしまう」という方もいるので、あくまでこの調査は平均的なものと思って下さい。
関連リンク
参考文献
佐々木君章 「低コスト振子制御システムの開発」公益財団法人 鉄道総合技術研究所
鈴木浩明、白戸宏明、手塚和彦「列車内における乗り物酔いに影響する振動特性」公益財団法人 鉄道総合技術研究所
小野一良・伊藤義男「鉄道線路の軌道に生ずる振動の解析」、土木学会論文報告集 第179号、1970年7月