ぐったりはくもとは、岡山~山陰地方を走る381系リニューアル車両である特急「ゆったりやくも」号の俗称です。
元々「はくも」と言われていたのですが、車両と共に俗称もグレードアップした稀有な存在です。
はく?
この381系は、自然式振り子という遠心力に任せて電車に搭載されている振り子を動作させ、カーブの多い線路を高速で通過できる仕組みを持っています。
この振り子電車(381系)は1982年の伯備線電化に伴い登場。来年(2022年)で40周年を迎えるなど、鉄道車両としては結構なお年になります。
伯備線はカーブが多く、まさにこの振り子が必須の路線と言えるでしょう。実際に381系が導入される前と後では、所要時間が全く異なります。
・1972年(振り子登場前、気動車時代)
岡山10時43分→出雲市14時20分(3時間43分)
出雲市14時50分→岡山18時22分(3時間32分)
・2021年(381系振り子電車)
岡山11時05分→出雲市14時12分(3時間7分)
出雲市14時33分→岡山17時39分(3時間6分)
電車と気動車の違いもありますが、ご覧のように30分近くの短縮になっているのです。
381系のおかげで、半径400mのカーブでも本来の制限速度から+20km/hまで出すことが可能になり、直線でも曲線でもスピードアップが図られています。
しかし、この振り子機構には欠点がありました。
とにかく乗り物酔い(=吐く)しやすいのです。
振り子機構には、「振り遅れ」や「揺り戻し」と呼ばれる自然慣性では出ない不自然なローリング運動が発生します。
具体的には、カーブを曲がると中の振り子のころが一気にそっちへ傾き、ある程度まで傾いていた車両が一気に傾くのです。
このことから、「はくも」なんて不名誉な名前がつけられてしまいました。
ゆったり→ぐったりに
この381系「やくも」号は、製造からまだ25年程度(2006年当時)ということもあり、2007~2011年にリニューアルを実施します。
国鉄型車両なのでトイレなど色々な設計が古いのですが、経年度数でいうとそこまで古い車両でもなく、まだまだ使えるので車内をリニューアルに着手しました。
例えば、座席を「サンダーバード」と同じものへ交換したり、洋式トイレを新たに設置したり……その結果、「やくも」は「ゆったりやくも」へと進化しました。
車内は今どきの車両のように綺麗になったのですが、肝心の振り子機構はそのまま。
ですので、これまでの「はくも」という俗称もそのまま「ぐったりはくも」へグレードアップしたわけです…。
ところでこの「ぐったりはくも」号、こちらの記事でご紹介した資料によると「381系約60両を新製車両に置換計画あり(投入時期2022年~2023年)」との記述があり、まもなく新車に置き換えられるものと推測されます。
ぐったりできるのもあと少しかもしれませんね。
私もぐったりしに一度乗りに行ってみようと思います。
ちなみに
同じく381系を使っていた特急「くろしお」は、2021年現在全列車が新しくなっているのですが、381系が在籍していた頃は「げろしお」なんていう身も蓋もない名前がつけられていました。
現在の振り子電車はそれを抑えるため、コンピュータがカーブを検知するとゆっくりと角度を変えていき、カーブが終わるとゆっくりと元に戻るようなシステムが作られています。
JR九州の特急「ソニック」や、同じくJR西日本の283系「くろしお」でも、この新しい振り子機構が用いられています。
関連リンク
参考文献
佐々木君章 「低コスト振子制御システムの開発」公益財団法人 鉄道総合技術研究所
鈴木浩明、白戸宏明、手塚和彦「列車内における乗り物酔いに影響する振動特性」公益財団法人 鉄道総合技術研究所