老朽化等の理由で解体され、長らくコインパーキングとなっていた阪堺恵美須町電停。
先日コインパーキングが閉鎖され、いよいよ再開発の機運が高まり始めましたが、なんと跡地にはマンションが造成されるようです。
恵美須町から北へは有志による延伸構想があったのですが、マンションが出来ると延伸できなくなるのでは…?と思い、現地を見てきました。
急遽変更?
現地に提示された建築計画のお知らせ。
地上13階建てのマンションとなっていますが…どことなくホテルっぽさも垣間見えます。
建築主:南海電気鉄道株式会社
設計者:積水ハウス株式会社 西日本特建支店
工事施工者:積水ハウス株式会社 西日本特建支店建築物の名称:(仮称)恵美須西2丁目PJ新築工事
敷地の位置:(地名地番)大阪市浪速区恵美須西2丁目1-12,1-13,1-16,1-17,1-20
(住居表示)大阪市浪速区恵美寿西2丁目1(予定)
建築物の用途:店舗付共同住宅
敷地面積:894.10㎡
建築面積:615.51㎡
延べ面積:6,524.42㎡
容積率対象面積:4,912.70㎡
構造:鉄筋コンクリート造
高さ:41.33m
階数:地上13階 地下0階
工事着手予定時期:令和4年2月1日
工事完了予定時期:令和5年10月31日
【追記】南海電鉄の決算資料によると、シェアスタイル企業寮という名目のようです。
インバウンド観光客全盛期、この恵美須町を含む難波・新今宮界隈はどこもかしこもホテルだらけでした。
しかしコロナウィルスの影響からか、ホテルが軒並み大ダメージを受けたことを踏まえて計画が変更されたのでしょうか。
9月頭時点での様子。駐車場であったことがわかります。
現地を見に行くと…
恵美須町駅は3面4線の大きなターミナル式駅でしたが、近年1面1線の通過式ホームへと切り替わりました。
現在の終点部。コンクリートの車止めが設置されていますが、通路が仮といった感じの佇まいで、延伸に含みをもたせているようにも見えます。
駅側から再開発地を見てみると手前側のスペースはまだ開けられており、マンションが立つ敷地は緑の柵の奥側だけのようです!これならなんとかなるかも…?
線路予想図を入れるとこんな感じになるでしょうか。いける気がしてきたぞ…!!
延伸構想はどうなる?
出典:「日本橋にトラムを通してにぎわいを進める会」 公式facebookページ
現在あるのが、阪堺の恵美須町~難波間延伸構想です。
この構想は阪堺や交通審議会答申で出たことはなく、2014年に日本橋の電気店などで作るでんでんタウン協栄会が発足させた「日本橋にトラムを通して にぎわいを進める会」さんがプッシュしているプランで、2029年の開業を目指して活動されています。
日本橋にトラムを通して にぎわいを進める会 構成員
・でんでんタウン協栄会
・日本橋筋商店街振興組合
・日本橋まちづくり振興
・上新電機
日本橋筋商店街には、延伸構想をアピールするポスターが各所に掲示されています。
同会によると、路線図の叩き台はこんな感じ。
日本橋3丁目南以外は全て過去に大阪市電でもあった電停で、路線図ではわかりやすいよう当時の電停名で記載しました。
恵美須町駅から、恵美須交差点を跨いで堺筋へ進入。
堺筋を北上して日本橋筋商店街を進み、地下鉄恵美須町駅北側改札口周辺(日本橋5丁目)、日本橋4丁目、日本橋3丁目南(ポポンデッタ日本橋店前)、日本橋三丁目(高島屋別館前)までを複線で建設、そこから単線として難波中2丁目(河原町)、終点難波駅前までをつなぐルートとなっています。
恵美須町電停から堺筋に入り、日本橋三丁目を経て難波に到着するこのルートは、かつての市電南北線(4系統)が走っていたので、実質的な市電の復活ともいえます。
市電とは?
1969年まで走っていた路面電車のこと
この区間には「4系統」という、阿倍野橋~上本町六丁目~大阪駅前~難波駅前~日本橋筋三丁目~恵美須町~阿倍野橋間を結ぶ路面電車が走行していました。
大阪府・市の構想は少し違う
ところが、大阪府・大阪市が出した「グランドデザイン大阪」では、阿倍野~難波間をLRTで結ぶ計画こそあるものの、この計画では阪堺線の延伸ではなく新規で独立路線を作る構想が示されています。
このルートは読売新聞の報道で「2015年度着工・2018年開通予定」という飛ばし記事がありましたが、結局現在でも目立った動きはありません。
もし出来ていれば阪堺の乗り入れもあったのかもしれませんが、2012年以降一向に進まない結果、阪堺側も業を煮やして方針撤回してマンションの建設に踏み切ったのでしょうか…。
公的な動き
2012年:大阪府市で「グランドデザイン大阪」を策定。阿倍野~難波間のLRT構想が示される
2014年:日本橋にトラムを通してにぎわいを進める会が発足
2019年:大阪市会の都市経済委員会において陳情書が提出される
現在の動き
大阪府議会において、当該エリアとなる浪速区・天王寺区の和田議員(大阪維新の会)が、何度かこの件について追及されています。
(和田賢治議員)
グランドデザイン・大阪では、なんば・天王寺・あべのエリアが一体化するまちづくりを進めることとしており、その取組の中でLRTを位置づけています。このエリアの中間に位置する日本橋では、地元有志の方々が、日本橋にトラムを通してにぎわいを進める会を立ち上げ、昨年には、日本橋の商店街で働く人や住民の方々に対して、まちづくりについてのアンケートを実施いたしました。その中で、日本橋商店街がどんなまちになったらいいかとの質問に対して、恵美須町からなんばまでLRTが走ればよいとの回答が三割以上あったと聞いております。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、日本橋など大阪の商店街は大きな痛手を受けました。これらに対しては、休業補償や持続化給付金など様々な支援が実施されておりますが、平成二十四年に大阪府市が策定したグランドデザイン・大阪に位置づけられたなんばから天王寺をつなぐLRT構想を私は今こそ具体化し、LRTのまちづくりを目指す地元日本橋や、ひいては、なんばから天王寺のエリア全体に言わば希望の光を与えるべきと考えております。(中略)
平成三十年九月議会の質疑において、当時の住宅まちづくり部長は、LRTの実現には数多くの課題があり、その解決には様々な対応が必要であるため、関係者と協議し、調査研究を進めると答弁されましたが、この二年間にどのような調査研究を行ったのか、住宅まちづくり部長にお伺いいたします。
出典:大阪府議会「令和2年9月 定例会本会議(1) 09月30日-05号」
住宅まちづくり部長(藤本秀司君) グランドデザイン・大阪の象徴的なエリアの一つであるなんば・天王寺・あべのエリアでは、回遊性の向上を図るために、その移動手段の一つとして、LRT--軽量軌道交通システム、いわゆるトラムでまちをつなげることを位置づけています。
LRTについては、これまで学識経験者などから、オーストリア・ウィーン市などの海外の事例、富山市などの国内の事例、MaaSなどの先進的な取組事例等について、関係者と共に御意見を伺い、調査研究を進めています。様々な事例により、LRTの需要創出や交通処理の合意形成には、市街地の活性化や自動車に頼らない都市活動などまちづくりの取組が、LRTの実現に当たっては重要であることを改めて認識することができました。出典:大阪府議会「令和2年9月 定例会本会議(1) 09月30日-05号」
和田賢治議員
今部長のほうから、一体となったまちづくりが実現するよう、今後とも関係者の方々と共に取り組んでいくとの答弁がございました。四年前にも、二年前にも同じ質問をさせていただきましたが、大阪市など関係者と協議し、調査研究していくとの答弁であり、また今お聞きしまして、何を調査研究し、何に取り組んだのかというのは、私の目には一向に進捗が見られないわけであります。
LRTは、低床で、誰もが簡単に乗り降りでき、都市のにぎわいスポットを楽しみながら回遊できる魅力的な移動手段であり、LRTの実現には多くの課題があり、容易な事業ではないことは、私も十分に理解をしております。まちづくりと一緒に進めていくことが重要であると考えておりますが、毎回言っておりますけれども、このグランドデザイン・大阪というのは、府と市が一緒になって策定して、府市一体となってやっていくという哲学があったはずなんです。絵に描いた餅にしては駄目なんです。どうか熱意ある、地域の方々に見える形で積極的に支援をいただきまして、まちづくりと併せて、LRTの実現に真剣に取り組んでいただきますよう強く要望をしておきます。また、次の一般質問の機会にも、これを質問させていただきますので、よろしくお願いします。出典:大阪府議会「令和2年9月 定例会本会議(1) 09月30日-05号」
う、うーむ……話が噛み合っていない感が…。
大阪市会では、もう少し具体的な答弁が見られます。
阪堺線恵美須町駅から北へLRTを延伸する場合、国道25号を横断し堺筋の道路空間を占有していくことが想定されます。
現在、堺筋は恵比寿交差点から日本橋3南交差点までの対面通行部分では北行き車線2車線、南行き車線1車線、日本橋3南交差点以北の一方通行部分は北行き5車線の幹線道路となっています。
LRTがその道路空間を占用することで、堺筋の車線が減少することによりまして、堺筋における自動車交通処理に支障を来す可能性があるだけでなく、周辺道路にもその影響が及ぶことも懸念されます。加えて、恵美須町駅から堺筋への移行部分におきましては、建物や地下鉄出入り口の移転が必要であること、阪神高速環状線との交差部におけます高さ空間の確保などの課題があります。
これら以外にも、地下鉄堺筋線と並行する路線となりますことから通勤客などの需要は多く見込めず、それを背景とした輸送人員を勘案した収支採算性の確保や事業主体の決定などの運営面での課題もあると考えられます。
なるほど、このプランの課題としては
・堺筋の車線が減少して渋滞が発生する可能性
・恵美須町電停~堺筋への線路は建物や地下鉄の出口の移転の必要もあること
・阪神高速道路との離隔高さ確保
・堺筋線と競合することで通勤客が見込めない→収支が悪い
などがあるようです。現実的な問題点をしっかりと炙り出していますね。
難波にLRVが来れるか
出ては消える阪堺の延伸構想。堺方面でもLRTを建設する動きがありましたが、結局頓挫してしまっています。せめて北側にもう少し伸ばしてあげたい…!と、一鉄道ファンとしては考えてしまいますね。
阿倍野・天王寺へ足を伸ばしている上町線は順調なのですから、きっと阪堺線も難波まで伸ばせば変わるのではないでしょうか。
現在は膠着状態ですが、また動きがありましたら記事にしたいと思います。
関連リンク
阪堺恵美須町電停跡地、まさかのマンション建設ですと…!?
コロナ前なら商業ビルだったのかなぁ pic.twitter.com/C9trEm9pPr— Osaka-Subway.com/鉄道プレス (@OsakaSubwaycom) October 12, 2021
参考文献
大阪府『「グランドデザイン・大阪」について』
読売新聞『天王寺~難波 次世代型路面電車15年度着工へ』(リンク切れ)