【特集】多数のフォロワーを生んだ「美学のある名列車達」

【特集】多数のフォロワーを生んだ「美学のある名列車達」

 

Twitterでの「フォロワー」とは、投稿内容をすぐに見られるように登録した人のことを指しますが、本来の「フォロワー」の意味には、付き従うもの・あとに続く人やモノという意味があります。

鉄道車両などの工業製品にもフォロワーという概念はあり、多くは成功した車両をアレンジしたものを指します。そうしたフォロワーにフォローされる車両というのは、一貫した美学があります。

 

 

美学を持つ車両は、後世において「名車」と呼ばれるプロダクトに進化することがあります。

どれほど伝統的なものがあっても、コストが障壁になろうとも、それを否定し、イメージを注ぎ込む覚悟ができた時、「名車」と呼ばれるプロダクトになるのです。

 

あらゆる犠牲を払いながらも「こういうものを作りたい」という強い信念の元で出来上がった、美学が詰まった電車を今日はご紹介します。

 

 

 

小田急「ロマンスカー」VSE(2005)

かつて、ここまで美しい電車があったでしょうか。

関西住みであまり小田急に触れない私からしても、「美しい電車は何?」と聞かれた時には真っ先に挙げるほど。

 

すっぽりと覆った床下、パンタグラフ以外殆ど突起物がない屋根上、それらを全て真っ白なボディでまとめた圧倒的美しさ。

小田急50000形VSEには、美学がこれでもかと散りばめられています。

 

 

 

先代のロマンスカーである「EXE」車は、これまでのロマンスカーにはない分割併合などをこなすビジネスライクな特急電車で、経済面から見ると優れた電車でした。

しかしそれとは裏腹に、小田原観光におけるロマンスカーの地位はみるみる低下していきました。

ロマンスカーはカッコいい流線型の電車なのに、EXEはそうじゃない」という声があったからだそうです。

 

観光とは非日常なもの。EXEは日常である通勤ライナーとしては優秀な電車でしたが、非日常の旅には不向きな電車だったのです。

当時の小田急首脳陣は、そこを見間違えていました。

 

その反省から、後継車であるVSEは徹底的に「ロマンスカーらしさ」にこだわり、非日常へ誘うロマンスカーとしてのブランド回帰に努めたのです。

 

もっとも、EXE車が悪い電車というわけではありません。

EXEは「日常使い」、VSEは「非日常」という役割分担がしっかりと徹底出来ていなかっただけなのです。

 

また、小田急ロマンスカーは、伝統的に11両編成で組成されていました。

そもそも11両になったのは車体から「車輪にかかる重さを分散させるため」という技術的な理由だったんですが、これを「見た時の安定性が増すから」という理由で、伝統をばっさりと捨てて10両編成に。

などなど、随所に岡部憲明氏のデザインという美学が詰められたプロダクトとなっています。

 

VSEは新たなロマンスカーのロールモデルとなり、後継車両であるMSE・GSEが出た現在でも、小田急のフラッグシップトレインとして運用を続けています。

 

 

 

近鉄アーバンライナー(1989)

関西で美学を持つ電車といえば、ひのとり……ではなく、初代アーバンライナーでしょう。

 

近鉄特急の伝統であった「2階建て車両」「オレンジ色に紺色のライン」をバッサリと捨て、「平屋車両」「真っ白なボディにスマートなオレンジのライン」を引っさげて登場したアーバンライナーは、近鉄特急の新しい美学が詰まった、革命的存在でした。

 

後に自社でも「さくらライナー」や「伊勢志摩ライナー」などのフォロワーを生み、基本コンセプトは後継車両である「ひのとり」でも受け継がれています。

 

1964年の東海道新幹線開業の影響を大きく受け、閑古鳥が鳴いていた名阪間の輸送ですが、新幹線側の相次ぐ値上げで徐々に近鉄に風が吹いてきました。

そこで近鉄は綿密なマーケティングリサーチをかけ、1つの解を導き出します。

 

それは「名阪間のお客は2階建てを要していない」ということ。

 

名阪間の乗客は、

・リピーターが多い
・1人で利用するビジネスユースが多い
・上記の点から観光客とは異なる

という特徴が浮かび上がります。

 

そして、それら利用客の欲するニーズはこうでした。

・椅子のリクライニング角度は今でも十分
・むしろ横・後との間隔を広げてほしい
・靴を脱いでくつろぎたい
・2階建てより平屋車両の方が好き
・イヤホンで聞けるオーディオサービスがあったらいい
・コピーやFAXなどは不要。近鉄に乗る時ぐらいは仕事から離れたい

 

 

 

出典:電気車研究会『鉄道ピクトリアル 1988年12月 No.505 臨時増刊号  <特集>近鉄特急』

 

デザインの担当に外部大学の教授を招き、客観的な意見を求めた上でデザイン案が練られていきました。

その結果、前面の角度が43度の尖ったかっこいいデザインが出来上がりました。

 

 

一方で、アーバンライナーの機器的・内装的観点は近鉄特急の伝統を受け継いだものが多く、「見た目は革命的に、中身は枯れた技術をそのままに」という安牌を取りに行った車両というのも○。

 

結果的にアーバンライナーは、これまでの名阪特急と比較して30%増、名阪特急全体の利用者も10%押し上げるなど、絶好調の数字となりました。

 

現在のアーバンライナーはリニューアル工事を受けた後、名阪特急の各駅停車タイプの列車に就任。

後輩の「ひのとり」用80000系と共に、今日も名阪間を駆け抜けています。

 

 

 

JR四国2000系TSE(1990)

最後はJR四国の2000系をご紹介します。

これまでのVSE/アーバンライナーと異なり見た目は普通の車両ですが、「四国…いや、全国の気動車特急のレベルを一段引き上げた」名車両です。

これまで重く野暮ったいイメージだった気動車特急ですが、「ステンレス車両に振り子エンジンを積んで軽快に走り回る」という革命的なイメージを生みました。

この車両には徹底した「気動車特急の速度向上を達成する」という美学がありました。

 

 

 

高速道路が整備される中、JR四国は生き残りを図るために高速化を推進せねばならない立場に置かれていました。

 

岡山~高知を2時間で走れる特急を作らないと生き残れない。」という危機感があったものの、現実には当時の土讃線・予讃線の最高速度は85km/h程度。

 

何故2時間を求めたのかには、次の説明があります。

岡山~高知2時間というのは新幹線接続で大阪~高知が3時間圏に入り、航空機と勝負できるからです。需要と収支を見た結果ですが、当時は鉄道と航空機の分かれ目が3時間だったのです

出典:福原,2016,p.24

 

 

そんな中、開発者の吉良氏は381系という振子電車があることを知ります。

「曲線や勾配が多く、85km/hまでしか出せない土讃線でも、カーブを通過する速度と最高速度が向上すれば、2時間での運転が出来うるのではないかと思った」…と、当時を述懐しています。

気動車での振子装置は、動力伝達の反作用で生まれる回転力の影響で難しいとされてきました。しかしこれを、エンジンを2つ並べて逆回転させて反作用を相殺されるというウルトラCで実現したのです。

 

 

こうして、振子気動車のテスト車両「TSE」が、1989年に富士重工業(スバル)で世界で初めて誕生したのです。

TSEはテスト用のプロトタイプで、内装面は先輩のキハ185系を踏襲していますが、その姿形はまさしく現在の2000系そのもの。

TSE開発にあたっては「もし失敗したらイベントカー(ジョイフルトレイン)にする」というほどまで、開発者の並々ならぬ思いがありました。

もし振子車両が失敗したら、試作車でやめます、この3両は異端児になるから振子を殺してイベントカーにします。だから最悪3両イベントカーを作るということでやりたいと思います

出典:(福原,2016,p.70)

 

 

TSEの試験成功を受け、一挙に量産開始されたのがJR四国2000系です。

この車両のおかげで、当初の目論見通り、岡山~高知間を走る「南風」は2時間半で駆け抜けています。

 

 

またこの車両の成功を受けて、JR北海道ではキハ281系を、JR西日本ではキハ187系、智頭急行ではHOT7000形など、同様の機構を用いた気動車特急が続々と登場し、全国に新たなフォロワーを生み出す結果となっています。

 

量産車の2000系は、長らく四国の顔といえる存在で、土讃線「南風」、高徳線「うずしお」などで活躍してきましたが、後輩である2700系が登場したことで、土讃線・高徳線から引退。

現在は愛媛方面へ転属し、第二の人生を歩み始めています。

また試験車のTSEは、長らく愛媛の特急「宇和海」として走ってきましたが、2019年をもって廃車されました。

 

その他

今回は文献不足や上記車両に比べると推しが弱い…などの理由で紹介しきれませんでしたが、こういった車両も今回とマッチしているといえそうです。

相鉄「YNB」

YNB」と称されるカラーリングを纏った、相鉄の新車20000系と12000系。

100周年を迎える相鉄が「相鉄デザインアッププロジェクト」として、東京都内へ直通するにあたりブランドイメージ向上・認知度向上を目指したトータルブランディングに取り組んでいます。

車両塗装からフォント制定、駅デザインに至るまで「相鉄」をイメージできるブランド作りに取り組んでいます。

 

京阪3000系

同じく、サインシステム整備と共に統一されたコンセプトで導入された京阪3000系もそうでしょうか

これまでの京阪にはなかった紺色を採用し、極めて都市型アーバンテイストな車両となっています。

このデザインは京阪電車の新しいスタンダードとなり、現在製造されている13000系は3000系のフォロワーともいえる顔つきになっています。

 

ただし、中之島線向けに投入されたものの同線の輸送成績が振るわなかったことで3000系はコンセプト変更を強いられ、左右対称で美しかった顔のデザインを崩すことになってしまいました。

鳩マークも元々想定されていなかった場所に無理矢理挿入されているので、ややアンバランスなものとなってしまっています。

 

JR西日本「500系」新幹線

博多~東京間の輸送を航空機から奪うため、最高速度300km/hを達成した500系新幹線も美学のある列車ですね。

「先頭車両の居住性」という犠牲を払い、ホワイトとブルーという伝統と決別した新しいカラーリング、ノーズが伸びた形状や新開発されたT形パンタグラフは、まさに高速運転を達成するために美学が注ぎ込まれた車両でしょう。

構造的に丈夫ということで、現在でも山陽地区を走っています。

 

関連リンク

 

「Osaka-Subway.com が選ぶ最も偉大な100の鉄道車両」の候補リストをアップしました

 

 

参考文献

『鉄道ピクトリアル 1988年12月 No.505 臨時増刊号  <特集>近鉄特急』、電気車研究会

福原俊一、『振子気動車に懸けた男たち JR四国2000系開発秘話』、交通新聞社、2016年

 

 

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