南海のサインシステム

各鉄道企業の駅構内には、乗り換えや出口で乗客が迷わないように案内標識が昔から設置されています。

フォントや配色ルールなどをあらかじめ決めておき、案内標識に視覚的な統一感をもたせておくと、乗客を迷わせないようにする効果があります。

こういった体系的に定められている案内標識のことを、サインシステムといいます。

近年、こうした「鉄道サインシステムに興味を持つ趣味人」のことをもじ鉄と呼ぶことが増えてきており、書籍も出版されています。

今回はそんなもじ鉄の皆さん向けに、また(空間)デザイナーさん向けに、関西の鉄道各社のサインシステムで用いられているフォントやデザイン歴史を、写真と共に解説していきます。

 

Osaka Metro(旧大阪市交通局)

ひげ文字(~1970)

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Osaka-Subway.comでも度々言及していますが、大阪市交通局のサインシステムのはしりは「ひげ文字」と呼ばれるものです。おそらく1970年以前に設置されたものと思われます。

その独特な表記に魅了されていた方も多いのではないでしょうか。

ひげ文字は、後述する本町サイン導入で姿を消しましたが、交通局の管轄でない私有地のビルにおいては2018年頃まで比較的残っていました。

しかし、大阪メトロ化によって「マルコマーク」が実態にそぐわなくなったことを受け、一気に消滅していきました。

 

守口サイン(1977年)

ひげ文字からサインシステムへの移行期にオリジナル書体が登場します。これはどことなく国鉄の「JNR-L」フォントに近いものがあり、意識していた様子が伺えます。

正式な名称はありませんが、谷町線都島~守口延伸時につけられたものであることから「守口サイン」と呼ばれることが多いようです。

こちらも2018年までは千林大宮・守口で見ることが出来ましたが、大阪メトロ化によって消滅しています。現在は両駅構内のごくわずかに残るのみです。

 

本町サイン(1977-2014年)

オリジナル書体の後、本町駅にゴシック4550を使用したサインシステムを試験的に制定。

先の2書体と違って、デザインや配色などまでキッチリと設計された大阪市営地下鉄初めての本格的なサインシステムです。結果的に、この本町サインタイプが広く普及していくことになります。

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これがうまくいったからなのか、その後はなんば駅を皮切りにこのサインシステムを展開していきますが、どのタイミングかで和文が見出しゴMB31に変更されています。

マイナーチェンジを重ねて、2013年頃まで使用されていました。

もっとも新しい2013年のサインシステム標準図によると、フォントは次のものが指定されています。

和文

1~6・8号線:モリサワの写真複写見出しゴシック体MB31又は同等。
7号線 : KK写研のゴナB BNAG又はモリサワの新ゴシックMedium又は同等。
ニュートラム : KK写研の写植文字ナールD又はモリサワのじゅん34又は同等。

 

英文・その他

Helvetica Medium又はHelvetica Bold又は同等。
但し、8号線駅番号アルファベット[I]の文字はMonospace821とする。
DLC Hei-GB ゴシック体又は同等。
HY太ゴシック又は同等。

 

現行(2015年~)

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そして2014年、新サインシステムとして「ヒラギノ角ゴ」が採用されたものが登場しました。

これはジーエータップ社・日本サイン社・竹内デザイン社・ジイケイグラフィックス社、4社の特別共同企業体(JV)が担当したもの。

英文は、日本の鉄道事業者としては初めての「Parisine(パリジーン)」が採用されています。

 

大阪市交通局・大阪メトロのサイン変遷

ひげ文字 (1965~1969?)

オリジナル書体(守口サイン・1977)

ゴシック4550(鎌田経世 氏製作) / Helvetica (1977)

見出しゴ MB31(モリサワ) / Helvetica (1978?~2014)

ヒラギノUD角ゴ / Parisign (2015~)

 

 

京都市交通局

京都市営地下鉄烏丸線については開業時からゴシック4550とUniversを採用。駅番号追加時に取り付けられたステッカーについてはHelveticaを採用しています。

地下鉄線内での視認性を意識してなのか、黒地にオレンジ色のデザインとなっています。

 

一方、あとから開業した東西線でも同じフォントを使って設置。ただし配色は異なります

 

神戸市交通局

神戸市営地下鉄 サインシステム

初期に開業した西神・山手線には、日本語には新聞特太ゴシック体(YSEG-L)?、英文にヘルベチカが採用されています。

初期の西神線4駅のサインシステムデザインを担当したのは、「株式会社黎デザイン総合計画研究所」というデザイン系の企業のようです。
(参考リンク:http://www.rei-design.co.jp/fieldA.html に1975年に手がけたとの記載があり)

サインシステムの開発は株式会社星光が1975年に行っています

こちらは海岸線仕様。和文に「ヒラギノ角ゴ」のW5/W7を、英文には「Frutiger」のBold/Romanを使用しています。

神戸市営地下鉄 サインシステム

プリンターやプロッターの種類や機種を選ばずに出力できるよう、アウトラインデーターが公開されていること等を条件として、和文書体としては「ヒラギノ角ゴシック体」のファミリーを採用し、文字数が少なく大きく扱う表記にはW7を、情報量が多く文字数が多い時にはW5を使用することにした。

また、英文書体としては同じ理由から「フルティーガー」のファミリーを採用することとし、ヒラギノゴシック体W7にはFurutiger-Boldを、W5にはFurutiger-Romanを組み合わせて使うこととした

参考文献:『神戸市交通局八十年史』(2002年10月,神戸市交通局)

 

【解説】神戸市営地下鉄に用いられるサインシステム


 

京阪電気鉄道

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以前のものは広告との併記で極めて見難く、また不格好なものでした

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が、2008年のCI一新で実にスマートなイメージになりました。

非鉄道系の友人に聞いても「京阪はなんとなくカッコいい」とまで言わしめ、更に鉄道のブランドイメージ調査で2位に浮上するなど、着実に新しい京阪のイメージが根付いた、まさにCI一新がブランドイメージを向上した良い例となっています。

更に、京阪ホールディングスのロゴ制定後は企業名をこちらに切り替え。よりかっこいいデザインになっています。

ちなみに、同じ京阪でも軌道線である石山坂本線では、引き続き「ゴナ」を使用中。

京阪電鉄のサイン変遷

ゴナ(写研)

2006年~ 新ゴ(モリサワ) / Frutiger

 

 

南海電鉄

南海のサインシステム

南海のサインシステムは1988年7月の関西空港と本線の結節点になる泉佐野駅においてテストとして登場したのが最初です。

参考文献:http://yokochan.fc2web.com/i/line-color-nankai1.htm

日本語にゴシック4550、英字にユニバース(ヘルベチカ?)を採用した、どこか優しい印象を持たせながら、機能美を保った優秀なサインです。

【追記】英字について「ユニバース」ではないか、とご指摘を受けました。確かにフォントのサンプルを見ていると「G」の表記に顕著な差が見られます。ただ、制定当初と現在で異なる可能性も捨てきれないので、ここではどちらも掲載しておきます。

 

但し、取り換えスピードがかなり遅く、2015年までは樽井や我孫子道、蛸地蔵などに筆文字も残っていました。

サインシステム制定前までも本線は青、高野線は緑という色分け自体はなされていたようです。

 南海では平成元年4月より「南海電鉄旅客案内サインマニュアル」を制定し、主要な駅でこのサインマニュアルに沿ったサインシステムの整備が進められました。このサインシステムは、『第24回SDA賞コンテスト(日本サイン・デザイン協会主催。日本で唯一のサインに関係する賞)』の「SDAシステム部門賞」を受賞し、優れたサインシステムとして認められています。現在最新の駅名標はこのサインシステムに沿ったデザインのものです。

出典:http://denshanokomono.web.fc2.com/eki/nankai/index.html

南海のサインシステム

一つ一つに南海電鉄オリジナル(一部はJIS規格のもの)のピクトグラムが考えられています。

南海のサインシステム

高野線は緑色、本線は青色で表記されます。

南海 サイン 新ゴ 樽井

また2015年頃に樽井駅に登場したナンバリング入りのものから、マイナーチェンジが行なわれて、和文が「新ゴ」になっています。

 

南海電鉄のサイン制定変遷

ゴシック4550(鎌田経世 氏製作) / Helvetica

新ゴ  / Helvetica

南海電鉄のサインは、ネット上でも評判の良いサインの一つです。

 

 

阪急電鉄

大手関西私鉄では唯一の写研フォント「ナール」を使用していることでデザイナー界隈にも有名でしたが、DTP化についていこうとしない写研に見切りをつけたのか、「イワタUD丸ゴシック」が近年採用され始めているようです。

ネット上の情報を見ると、2014年頃から更新が始まっているようです。

出典:https://matome.naver.jp/odai/2133883151920255301

よく似ていますが、うめだの「だ」の表記が大きく異なっているのがわかります。

 

駅構内のサインもイワタUDゴシックへ、「り」と「3」の特徴的な表記で判別できます。

【参考】イワタUDゴシックのサンプル例

 

阪急電鉄のサイン制定変遷

ナール(?~2013?)

イワタUD丸ゴシック(2013?~)

 

 

近畿日本鉄道

駅名標制定時から、大阪に本社を置く「モリサワ」との関係が深く、早期から新ゴが見られました。

現在はイワタUDゴシックが用いられています。

 

参考リンク

『株式会社イワタ イワタUDフォント』
http://www.iwatafont.co.jp/ud/jirei_14.html

旧駅名標時代の写真。新ゴが採用されています

こちらはそのもう一世代前のタイプでしょうか、見出しゴMB31が使用されていました。 英字表記が全て大文字なのも特徴的です

 

【近鉄サインの変遷】

見出しゴMB31

新ゴ

イワタUDゴシック

 

 

阪神電鉄

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以前のものは、京阪と同様に広告が併記された見難いものでした。

また、現在では普遍的なモリサワのフォントを最初にサインシステムに採用したのは、1970年の阪神梅田駅だそうで、 和文に「モリサワ写植正体ゴシック」、英字に「ノイエ・ハース・グロテスク(Neue Haas Grotesk)」を使ったのだそうです。

モリサワは大阪が誇る文字フォントの会社ですが、最初にサインシステムにフォントを使うという先見の明があったのは、やはりこれも大阪の阪神電鉄でした。

またNeue Haas Groteskは、世界一著名なあのフォント「Helvetica」の元となったフォントです。

 

参考文献:中西あきこ『されど鉄道文字』 252p

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2009年のなんば線開業を機にサインシステムもリニューアル。和文には珍しい「ロゴG」を採用しています。

 

阪神電鉄サインの変遷

モリサワ写植正体ゴシック(梅田のみ?)

ゴシック4550

ロゴG(2009年~)

 

神戸高速鉄道

現在は阪神電鉄の子会社ですが、以前は神戸市が筆頭株主の「神戸高速鉄道株式会社 」と独立した存在でした。

現在は花隈が阪急式、その他の駅が阪神式の駅看板に架け替えられています。

 

 

JR西日本

JR西日本では「新ゴ」と「Helvetica」を採用。アーバンネットワークでは路線ごとにラインカラーが制定されており、例えば画像の阪和線はオレンジ色です。

それ以外の路線では、JR西日本のコーポレートカラーである青色になっています。

また、近年リニューアルが行われた駅については、基本的なデザインはそのままに英文が「Frutiger」へと変更されています。

 

神戸電鉄

親会社の阪急にあわせたようなデザインですが、フォントは「角ゴシック」を採用しています。

 

泉北高速鉄道

接続する南海電鉄にあわせたのか、ゴシック4550を採用。

当初は白地のものを使用していましたが、後に黒地に変更。ナンバリング採用後から4ヶ国語表記を採用しています。

ユニバース(ヘルベチカ?)を採用する英字は、南海と同じく大文字のみの表記です。

駅柱に掲示するタイプ。上部に泉北高速鉄道のロゴが入っている他は、南海のサインシステムに準拠しています。

 

2017年11月4日の泉ヶ丘駅リニューアル工事(改札移転日)から、同駅では新型のサインが用いられています。和文にやや細目なフォントの「UD新ゴL」、英文に「ClearTone SG」が採用されています。

番線表記もこのようになっています。「1」の部分のみがFrutigerでしょうか

 

情報提供:んご様しば犬様ぷにぷに様

 

京福電鉄(嵐電)

旧サインについては、サインシステムではあまり見られないダイナコムウェア製「太丸ゴシック」を採用していました。

2016年頃から、新しいサインシステムへと置き換わりつつあります。

もじ鉄で有名な石川さんの解説によると、和文は「ロダン」、ひらがなが「ヒラギノ角ゴ」、英文が「Helvetica」、駅番号が「Avenir」ではないか…とのこと。

嵐電は二路線が運営されており、嵐山本線が赤色、北野線が紫色となっています。

 

 

フォントを作る2大企業

こういった鉄道のサインシステムで使用されているのは、ほとんどが「モリサワ」「写研」の2メーカーのものです。

どちらもルーツは同じですが、「モリサワ」を立ち上げた森澤信夫氏が写研から独立した経緯があります。

モリサワは、個人PCでも使えるデジタルフォントの製品化に積極的な素晴らしい企業です。代表的なフォントには「新ゴ」「見出しゴ」「フォーク」などがあります。

 

それに対し、写研はフォント製品化に消極的…というかもはや否定的で、2011年に製品化を一度は公言したものの、8年経った現在でも未だに実用化されておらず、時代の情勢についていけていません。

代表的なフォントには「ナール」「ゴナ」などがあります。

 

何故フォントの製品化をしないのかには、Wikipedia出典ですが以下のようにありました。

「正しい文字組みが保証された環境を維持したい」という会社の方針から、同社はフォントを単体では販売していない。このこともあってか近年は低コスト・効率化を実現するDTPシステムの発展・普及により、そのシェアを譲っている。

こういう事情もあって、近年の鉄道サインについては、誰もが簡単に使えるデジタルフォント化したものがラインナップにある「モリサワ」製のものを採用する事業者が多くなっています。

 

フォント製作者まとめ

ゴシック4550:鎌田 経世(営団地下鉄で初採用)

国鉄すみ丸ゴシック:佐野 稔

 

関連リンク

大阪市営地下鉄のサインシステム・駅名標のフォント

大阪市営地下鉄のサインシステム・駅名標のフォント2

大阪市営地下鉄のサインシステム・駅名標のフォント3

大阪市営地下鉄のサインシステム・駅名標のフォント4

 

 

参考文献

大阪の鉄道会社が何かと使用しているフォントまとめ - NAVERまとめ

関西の鉄道 No.43 2002 盛夏号 - 関西鉄道研究会

関西の鉄道 No.60 2012 新春号 - 関西鉄道研究会

「もじ鉄 書体で読み解く日本全国全鉄道の駅名標」石川 祐基、2018年


今週の鉄道イベント情報(Tetsudo.comより)

12日(木)  なし
13日(金)
14日(土)
15日(日)

3 件のコメント

  • 大阪市営地下鉄のサインについて、以下の点が事実と異なると思われます。
    宜しくご確認ください。

    「これはデザイン会社のGKデザイン社が担当したもの。」
    →4社共同企業体によるものです。
    http://www.kotsu.city.osaka.lg.jp/library/ct/zuikeikekka/201302/tokumei_1302_005.pdf

    「英文は、日本の鉄道事業者としては初めての「パリサイン」が採用されています。」
    →パリジーン(Parisine)です。パリのメトロで使用されている書体です。
    https://typofonderie.com/fonts/parisine-family/
    http://blog.excite.co.jp/t-director/11871243/

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