都心部の鉄道駅で耳にする「電車の発車メロディ」は、現代では一般的なものとなっています。
しかし音関係の情報は文献媒体との相性が悪いのか、その歴史を検証しているページはあまり見当たりませんし、専門的な趣味誌でも間違った情報が掲載されることがあります。
そこで今回、当サイトではこれまでの調査に基づいて、鉄道駅における「電車の発車メロディ」に関する歴史を精査してまとめました。
最初は「太鼓」
1872年、日本で始めての鉄道ができた際には、なんと太鼓で発車合図を鳴らしていたのだそうです。これ以外に鈴や鐘といったものも使用されていたとの記録があります。
鉄道黎明期ということもあり、色々と試行錯誤していた様子が伺えますね。
「発車メロディ」とは多少概念が異なりますが、メロディの始祖ということで紹介しておきます。
「発メロ」の始まりは大分
戦後からしばらくが経った1951年。
大分の豊後竹田駅(豊肥本線、大分と熊本を結ぶ路線)にて、電車の発車メロディとして「荒城の月」「菊」が使用されました。これが発車メロディの元祖といえるでしょう。
これらの曲は、大分出身の滝廉太郎氏にちなんで採用されたものです。
当然ながら当時にシステマチックな放送設備は無い為、なんと町民から寄贈されたレコードを使ってその都度鳴動させていたそうです。
途中、編曲の違いなどでバージョンが変わった時期はあれど、現在に至るまで一貫して「荒城の月」が流されています。
近代的な発メロの始祖は「京阪電車」
システマチックな発車メロディ設備を備えた近代的な発メロの始祖は、京阪電車の淀屋橋駅・三条駅です。
作曲は、京阪電車の発車ベル設備を担当していた木村陸朗氏。
当時のメロディには
①特急用には「フィガロの結婚」をアレンジしたメロディ
②一般列車用は「オリジナルメロディ」
がそれぞれ採用されていて、木村氏は「海軍兵学校時代によく聞いた、起床時のラッパ調をイメージした」と言及されています。
京阪特急用「フィガロの結婚」
特急用には「フィガロの結婚」をアレンジしたメロディが採用されていたとみられます。2) 10)
文献では昭和46年(1971年)頃からとなっていますが、最初から「フィガロの結婚」なのか、当初は違うメロディだったのかははっきりしません。
ただ、1981年には既に「フィガロの結婚が使用されていた」という証言が上記動画のコメント内にて言及されている他、1979年に収録されたサウンド集 9)でも確認されていることから、遅くとも1979年には使用を開始していたようです。
1995年12月25日からは特急でダブルデッカー車のデビューにあわせ、新たに「牛若丸」が採用されて姿を消しましたが、現在も京都競馬場での淀駅臨時特急停車時に使用されています。
【特急用メロディの歴史】
・1971年?~1995年:フィガロの結婚をアレンジしたメロディを採用
・1995年~2007年:牛若丸を採用
・2007年~:向谷実氏作曲のメロディ「MIYABI(京都行き)」「GENKI(大阪行き)」を採用
一般列車用「オリジナルメロディ」
特急以外の種別用には「オリジナルメロディ」を採用。
こちらは向谷実氏作曲のメロディが導入される2007年まで使用されました。
【一般用メロディの歴史】
・1971年~2007年:「オリジナルメロディ」を採用。当初は最後の音階が長く続いていた
・時期不明:最後を短く切る編曲がされる
・2007年~:向谷実氏作曲のメロディ「AKOGARE(京都行き)」「KIRAMEKI(大阪行き)」を採用
「JR初」は仙台と富山
1987年の国鉄民営化以降、JRとして初めてメロディの導入へ踏み切ったのは、JR東日本でした。
1988年の11月22日、仙石線60周年を記念して仙石線仙台駅のホームに「発車メロディ」が導入されました。8)
この曲は「青葉城恋唄」という歌で、青葉城(=仙台城)の風景を歌った、まさに仙台にぴったりな曲として選定されたようです。
翌年の1989年には東北新幹線にも導入、これは新幹線としては初めての発車メロディなのだそうです。
一方、JR初の”接近”メロディは、1989年の10月14日に富山駅で導入されたものが最初となります。
富山の民謡である「こきりこ節」をアレンジしたメロディが、富山駅の到着・発車メロディとして導入されました。
この物悲しげなメロディは、新しい信号システム「CTC」導入のために2000年1月をもって終了。
以後は北陸本線共通の「到着ブザー」と「メロディ」へ切り替えられました。
音環境の意識の変化
ちょうどバブル時代にさしかかろうとしていた1989年頃から、社会的に「音環境を心地良くする」という風潮が興り始めました。
これは鉄道駅などにて、けたたましく鳴る発車ベルが「耳障り」「不快」だとされたことにより、その改善策として導入されたのがきっかけです。
大阪の場合
https://youtu.be/_zrKC6RKNqg?si=gobkk28Em60KYK_5&t=157
大阪では、1990年3月の花博を契機に、音への意識が大きく変わったのだそうです。
最も顕著な例では、会場への輸送路線であった鶴見緑地線にて発車メロディ・到着メロディが採用されました。
続いて1992年からは、他の地下鉄路線(御堂筋線など)へもメロディが採用されました。
5年ほど遅れて、1997年からはJR神戸線でも接近メロディの使用が開始されました。
JR神戸線の接近メロディは、サウンドデザイナーの西谷喜久氏が製作されており、この他JR京都線や関西空港駅のメロディなども作曲されているのだそうです。
東京の場合
東京の場合は、1989年3月にJR東日本から依頼されたヤマハが「発車メロディ」のシステムを納入。これが音環境の改善に大きな役割を果たしたといえます。
初代PS版「電車でGO!」でも聞けたこのメロディは、今や非常に多様となった「関東圏における発車メロディ文化」の幕開けであるといえますね。
その他
JR北海道では旭川駅での使用が最も早い事例だそうで、1990年9月1日のダイヤ改正から利用開始となりました。
金沢駅では1992年にメロディが導入されたのですが、当時はまだメロディが発車合図だと認知されておらず、乗り遅れる人も出たのだそうです。
まとめ
ということで、今回記事の「発車メロディの歴史」いかがでしたでしょうか。
当サイトとしては
① 日本初の発車メロディ:豊肥(ほうひ)線 豊後竹田駅(大分)
② 日本初の近代的な発車メロディ設備:京阪電車の淀屋橋駅(大阪)
③ JR初の発車メロディ:仙石線の仙台駅(宮城)
であると結論付けました。
皆さんのお役に立てれば幸いです。
関連リンク
参考文献
- bizSPA!フレッシュ『駅メロの歴史は70年前の大分で始まる。音楽の専門家が語る「乗車メロディー」の深い話』
- 日本鉄道電気技術協会『鉄道と電気技術』7(1)(573),、1995-12.
- レファレンス協同データベース「駅のホームで流れている特色あるメロディはいつ頃から始まったのか。」
- Jタウンネット「JR導入から30年、「駅メロ」が変えた鉄道風景 元祖メロディーの誕生秘話に迫った」、大宮高史、2019年3月11日
- 大阪商工会議所「Chamber (455)」、1992年11月
- 西谷喜久「PRESSSTONE」
- 7-Prefecture「ご当地駅メロディー資料館駅メロの新事実?」
- 朝日新聞「発車メロディー一新 JR仙台駅27年ぶり、榊原さん再び編曲 /宮城県」、2016年7月15日 宮城版朝刊
- スルッとKANSAI「スルッとKANSAI Sound Collection vol.1」(情報提供:Osakan Rolling Lover様)
- 電気車研究会「鉄道ピクトリアル 1984年1月臨時増刊号」、P.54 (情報提供:Osakan Rolling Lover様)