山手線原宿駅の近くにある、どこかレトロなホームを見たことはないでしょうか。
実はここは天皇陛下・皇后陛下だけが使える、いわば「皇室専用ホーム」なのです。
前々からずっと見たかったのですが、今回ようやくそれが叶ったので行ってきました。
ホーム概要
この皇室専用ホームは、正式名称は「原宿駅側部乗降場」と言います。ホームの長さは171m、有効長は217mだそうです。
「皇室専用」と聞くと一見華々しく聞こえるものの、作りは非常に簡素でシンプル。
というのもこの駅の出自はあまり良いものではなく、大正天皇の静養の為に作られたものだからです。
ご静養のために
このホームは病気がちだった大正天皇が、沼津や葉山に作られた別荘で静養する為の出発駅として、1925年10月の大正時代に作られたものです。
当時はまだ道路が未発達で、自動車による長距離移動が難しかった日本の事情もあり、中距離~長距離移動には必ず鉄道が使われた時代でした。
このホームをあまり派手に作ると、健康でない大正天皇の容態が目に付き、それが国民に知れ渡ってしまいます。
それを恐れた宮内省と鉄道省が協議した結果、人目につきにくく皇居に近い原宿駅が選ばれ、作りも古レールを再度利用するなど、シンプルな駅として出来上がったのでした。
1926年8月10日にはこのホームを用いて、当時の大正天皇は実際に葉山へ静養されに出かけられたのですが、その地で崩御(亡くなられること)されたので、結果的にはわずか一度きりの使用となってしまいました。
昭和になって
その後、昭和天皇が即位されてからも、このホームを数多く利用されました。
戦時中、東京への空襲の影響で1945年5月24日に全焼する被害を受けますが、その後復旧しています。
戦後は使用頻度も上がり、昭和天皇の各地への行啓に使用されたことは勿論、
・1952年10月14日:鉄道開業80周年を記念し、初の一般公開を実施。「義経」「しづか」も来線。
・1957年10月12~14日:「第85回 鉄道記念日行事記念」として車両展示会
→展示車両:C62・EF58・DD11・ナロ10特別ニ等車・オシ17形・クハ86形湘南電車。キハ20形、ワム80000形
・1979年5月:201系電車の展示会を実施
・1988年7月:「アメリカントレイン」の出発式を実施
・2016年10月30日:原宿駅開業110周年の記念として、一般公開を実施
など、散発的に公開イベントが実施されていました。
イベントとしては定期的に開放されるのですが、本来の目的である天皇陛下・皇后陛下を乗せたお召し列車が入線したのは、2001年の運行が最後となっています。
構内の出発信号機も、ご覧のように前札がかけられていて、どこか寂しい雰囲気が漂っていました。
現地の様子
皇室専用ホームへは、原宿駅から歩いていきます。
道中には「お召し列車通り」という小さな看板が設置されていました。この名前を知っている方は果たしてどれだけおられるのでしょうか…
駅入口の様子。ホームは壁面を真っ白に塗られていて、派手さはないものの存在感があります。
(意図的に地味な駅として仕上げられましたが、これだと却って目立つのでは…)
柵もどこかレトロな作りです。
ホーム待合部分の様子。大きな三角屋根の建物の下に。ドーム形状の内装が広がっています。
明るくしてもう一枚。10点の照明と時計が設置されていました。
今でもちゃんと整備されていて、いつでも点灯出来るようになっているそうです。
正面から撮ると…10点ではなく15点の照明が並んでいました。プラットホーム方向には工事用のバリケードが建てられています。
既に最後の利用から23年が経過しようとしているこの「皇室専用ホーム」ですが、再び天皇・皇后両陛下が御利用される日はやってくるのでしょうか…。
ちなみに先代の平成天皇(上皇陛下)は、ダイヤを変更して国民に負担がかかる事を憂慮され、あまりお召し列車の利用に積極的でなかったそうです。
鉄道での移動の際には、東京駅から乗車するケースが多く見られました。
関連リンク
伝説のお召し機関車「EF58形61号機」を見てきました
天皇陛下が見惚れ、汽車を遅らせた絶景「杉津駅」に行ってきた
参考文献
- 毎日新聞社調査部「ポスト 第2集」、1956年
- 日本鉄道建設業協会「日本鉄道請負業史 大正・昭和(前期)篇」、1978年