【コラム】なぜ日本でリトルダンサーは増え続けるのか?

【コラム】なぜ日本でリトルダンサーは増え続けるのか?

交通機関へのバリアフリー化は路面電車も例外ではなく、国や自治体からの補助金制度が出揃ったこともあり、現在、日本の路面電車へは超低床電車(LRV)の導入が進められています。

日本では、アルナ車両の「リトルダンサー」というタイプの電車が主流となりつつあります。

 

その他、ドイツから輸入し日本向けにカスタマイズしている新潟トランシスの「インチェントロ(ブレーメン形)」や、

 

日本企業5社が合弁で作った「JTRAM」という電車もあるにはあるのですが、どういう訳か「リトルダンサー」が一番の人気なのです。

 

 

リトルダンサーを導入している会社

どれぐらい人気なのか、実際に導入している事業者を並べてみると…

・札幌市交通局
・函館市企業局
・豊橋鉄道
・富山地方鉄道
阪堺電気軌道
・伊予鉄道
・とさでん交通
・筑豊電気鉄道
・長崎電気軌道
・鹿児島市交通局

ざっと10事業者にものぼります。まさに日本一人気の路面電車です。

伊予鉄道や鹿児島市交通局などは継続的にこのリトルダンサーを導入していることからも、人気の高い車種であることがわかります。

 

一方、先程あげた「JTRAM」や「インチェントロ」は…

【JTRAM】
・広島電鉄

【インチェントロ(ブレーメン形)】
・富山ライトレール
・富山地方鉄道(富山市)
・万葉線(高岡)
・福井鉄道
・えちでん鉄道
・岡山電気軌道
・熊本市交通局

といった事業者が導入しています。

このうち、JTRAMは広島電鉄のみの採用に留まり、インチェントロ(ブレーメン形)は7事業者に導入されているものの、リトルダンサーよりは少数派です。

 

更に、富山地方鉄道のインチェントロ(ブレーメン形)はあくまで富山市からの貸付という扱いで導入したものであり、富山地方鉄道自らの発注として旧型車の置き換えには「リトルダンサー」を採用しています。

 

出典:熊本市交通局「熊本市交通局経営計画(2021~2028)~市電100年、そして次の世紀へ~ 骨子」

更に長年「ブレーメン形」を採用し続けてきた熊本市交通局は、新型車としてリトルダンサー導入を示唆するなど、2021年現在、人気があるのはリトルダンサーです。

 

 

リトルダンサーがここまで支持されるのは、いったいなぜなのでしょうか。

 

 

日本向けで使いやすい

その答えはアルナ車両が重視した、メンテナンスの軽減にありました。

平たくというと、リトルダンサーは日本の路面電車の技術を用いた超低床電車なのです。

アルナ車両は、リトルダンサー開発において以下の点を重視しています。

・従来の路面電車並みのサイズで小さく、ワンマン運転がしやすい
・地上施設の改修が少ない
・車内移動がしやすい
・機器を国産でまとめ、調達がしやすい
・保守において従来車両と同じ扱いが極力出来る
・低コスト

 

 

1.地上施設をあまり改修しなくていい

それまでになかった超低床電車を導入する場合、鉄道会社側はそれに合うような軌道(線路)、信号、車庫のメンテナンス設備までもう一度設備投資をしなければなりません。要するにお金がかかります。

 

例えば、路面電車の線路は絶えず車の往来で摩耗したり、枕木がアスファルトの下に埋もれていて保守が大変だったりします。

ある程度の大雑把さに耐えていた既存の路面電車でも、超低床電車の場合は線路の保守具合に極めて敏感。保守が甘いと、振動がひどかったり、最悪脱線してしまったり…ということも。

 

事業者としては、当然それらの投資がない方がいいですよね。

具体的にどういったものを改修するのか…、次節以降でまとめました。

 

 

2.今までと同じ車軸つき車輪

インチェントロやJTRAMは独立した車輪を用いています。特に超低床電車では、車軸が床部分と干渉することから、車輪をそれぞれ独立させたほうが床をフラットにしやすいメリットがあり、こちらが採用されます。

 

ただ、独立車輪方式を採用すると、片側だけ車輪の削れが早くなってしまうことがあります。摩耗に敏感なのです。

車軸のある車輪だと1つのモーターで2つを担当しますが、独立車輪だと左右の車輪に別々のモーターがつくことになり、両方を統括して制御することが難しくなります。

 

実際にそれらを熟知していなかった万葉線では脱線事故が多発。ライセンス元である新潟トランシスに325万円の損害賠償請求を行う事態となっています。

 

その点を考慮し、リトルダンサーでは従来の路面電車と同じ左右の車輪を車軸で繋いだタイプを採用しています。ちょうど鉄道模型の車輪パーツと同じですね。

こうなると低床にするのは難しくなるのですが、アルナ車両の技術力と工夫でこれを克服しています。

 

・独立車輪は低床電車を作りやすい反面、線路のメンテナンスが非常に敏感になる
・車軸つき車輪はある程度の「雑さ」に耐え、メンテナンスコストが安い

 

 

3.急カーブが曲がりやすい

リトルダンサーの最小曲線半径は14mです。これは、90度カーブをする際に必要な距離と考えて下さい。

しかしながら、インチェントロやJTRAMは18mが必要になります。そう、小回りが利かないのです。

 

ただ、リトルダンサーも曲線が曲がれない事例はあり、例えば豊橋鉄道の運動公園前付近のカーブは半径11mで、14mが最小のリトルダンサーでは曲がれません。

 

 

4.ブレーキの違い

欧州の路面電車は、ディスクブレーキが多く採用されています。このタイプはブレーキ力が非常に強い反面、中に乗っている乗客が転びかねない為、日本での採用は敬遠されます。

日本の路面電車では、鋳鉄を車輪に押し付ける鋳鉄制輪子タイプを採用してきました。このタイプは、ブレーキ時に粉が飛んだり音がうるさいなどのデメリットがあります。

しかしながら、雨天時でもブレーキ力が安定して得られることや、レールの面を研磨して綺麗にできる副次的効果もあり、軽い傷程度なら電車のブレーキで削られて綺麗になり、線路の交換をする頻度が減るメリットがあるのです。

札幌や函館などの寒冷地では、緩めのブレーキをかけながら加速し、摩擦熱で雪を溶かすような使い方もするのだとか。

 

・欧州の路面電車はディスクブレーキを採用。→ブレーキが力が非常に強い
・日本の路面電車では、鋳鉄制輪子タイプのブレーキを採用。→ブレーキ力は弱いものの、メンテナンスコストを下げる工夫が培われている

 

 

5.車内が移動しやすい

欧州の路面電車は信用乗車方式が一般的です。これは、検札を常にはしないけれど、違反乗車が見つかった場合は高額な罰金を支払わせるという仕組みです。

日本ではそういうシステムが整っておらず、法的な罰金もせいぜい3倍程度とあまり抑止力になっていないことから、運転士さんの横まできて料金を支払う方式が一般的です。

 

そうなると、下車時に一番前まで移動する必要が出てきますよね。

あまりそこで時間がかかると列車の表定速度が下がってしまいます。

 

 

それらの事情もあって、日本の路面電車の車体長は12-13mぐらいの長さが多く、海外の18m級車両を入れると車内の移動がしづらい側面があります。

リトルダンサーではその点を考慮し、単車タイプ(S)で12m、連接タイプ(A3)で14mにまで縮め、既存路面電車車両との差を少なくしています。

 

もちろん長編成も可能で、現在導入が多い「タイプUa」は16.2mとなっています。

 

タイプS タイプA3 タイプUa
車体構成 2軸ボギー単車 3車体連接 3車体連接
車体長 12m 14m 16.2m
採用車両 伊予鉄道5000形
札幌市交通局
「シリウス」
鹿児島市交通局
「ユートラム」
阪堺電気軌道
「堺トラム」
豊橋鉄道
「ほっトラム」
など他多数

 

 

また、車椅子の方も前まで移動する必要があることから、交通バリアフリー法では通路幅800mmの確保が必須条件となっています。

標準軌のJTRAMでは880mmを確保しているのですが、狭軌だと車体自体が狭いのでこれをクリアするのが難しくなります。

そんな中、リトルダンサーは狭軌でも820mmの通路幅を確保。交通バリアフリー法の基準をクリアしているのです。

 

 

デメリットもある

…と、ここまで書くといいことづくめなように見えるリトルダンサーですが、デメリットもあります。

1つ目はあまり急な勾配には対応できないこと。

2つ目は、スピードが遅いことです。

 

勾配に関しては、日本の路面電車ではあまり問題にならないのですが、もう一つの最高速度に関してはネックになってくる路線もあります。

 

例えば、広島電鉄の「グリーンムーバー(JTRAM)」や福井電鉄の「フクラム(インチェントロ)」では、70km/hで郊外区間をかっ飛ばしますが、ここにリトルダンサーを充てることは難しいでしょう。

リトルダンサー・インチェントロのどちらも導入している富山港線では、幸い最高速度が60km/hまでですから、なんとかリトルダンサーでも対応できるのです。

 

3つ目は、運転台後ろのドアは両方に取り付けることが出来ないこと。おそらく車体強度の関係上、必ず左右どちらかだけになります。

岡山ではこの点を問題視した結果、初のLRV導入にはリトルダンサーの採用でなく、インチェントロ(9200形MOMO)が採用されています。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

私も富山ライトレールでLRVのかっこよさを見て以来、どちらかというとLRV車両はインチェントロ推しなのですが、現実には大阪も含めてリトルダンサーの方が人気であることは確かです。

 

ただ「何故ここまで人気なのか?」という点については、調べていて納得のポイントでした。日本の鉄道事業者の様々な事情にしっかりと対応するアルナのマーケットイン思想は流石です。

 

高速運転に向いていて欧州仕込みのデザインがカッコいい「インチェントロ」ゆっくり運転でも使いやすく小回りが利く「リトルダンサー」。

この2者で、今後日本中の路面電車が全てLRVになっていくといいですね。

 

JTRAM?知らない子ですねぇ

 

 

3タイプ比較

リトルダンサー インチェントロ JTRAM
車軸 あり なし/あり なし
最小通路幅 820mm 760mm 880mm
最小曲線半径 14m 18m 18m
勾配対応 22パーミル 50パーミル 50パーミル
設計最高速度 60km/h 80km/h 70km/h
前部の扉は片側のみ 制約なし 前部の扉は片側のみ

 

 

価格参考

豊橋鉄道T1000(Ua) 2億5000万円
長崎電気軌道3000形(U) 2億2000万円
長崎電気軌道3000形(Ua) 2億5000万円

 

関連リンク

【まとめ】いまどきの新型路面電車 種類別一覧

 

参考文献

日本機械学会誌『純国産低床路面電車の開発について』(アルナ車両、田島辰哉)

宇都宮市『芳賀・宇都宮LRTの車両について

富山新聞「損害賠償金は325万円 万葉線脱線 事故から1年ぶり、車両会社と示談成立」、2005年9月27日朝刊

JREA『国産超低床路面電車の紹介』2010年 Vol.5

 



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