「日韓海底トンネル」構想とは?完成予定はいつ?

「日韓海底トンネル」構想とは?完成予定はいつ?
ライセンス:CC-4.0 撮影者:Soeulrapid

 

日本と韓国を結ぶ「日韓海底トンネル」の話題が定期的に上がってきますね。

現状、日本・韓国両政府とも殆どやる気がなく、むしろ宗教団体がゴリ推ししているに留まっているのですが、この構想自体は韓国がまだ日本時代だった1930年代からずっとあるものです。

今回、釜山広域市の選挙で出馬する野党議員が公約に掲げたことで再び話題になっているようです。

 

 

というか、そもそも日韓海底トンネルってどんな構想なんでしょうか

正式に決定したものではなく完成予定もへったくれもない夢物語な話ですが、もし実現すれば「韓国のKTXが博多にやってくる」かもしれません。

 

 

日韓トンネルの歴史

そもそもこの「日韓トンネル」計画は、1930年代に日本~アジア大陸とを結ぶ「大東亜縦貫鉄道構想」が出たことからスタートします。

これは釜山から満州国奉天・中国北京を通り、ベトナムのサイゴンやシンガポールに至ることを想定した路線です。

 

 

1940年代には日本国内を結ぶ弾丸列車計画が持ち上がり、先の計画に追加して下関~対馬~釜山を結ぶ海底トンネル計画が持ち上がります。これが「日韓トンネル構想」の初出になります。

つまり、日韓トンネルはあくまでアジア地域と日本とを鉄道で結ぶ為に必要なもの、という認識があって成り立っていたものです。

 

その後、1986年に佐賀県唐津市において500m程度の試掘調査が行われましたが、現状はそこまでの段階です。

日韓トンネルに関して国から連絡を受けていることはありませんが、唐津市では1986年に鎮西町名護屋で、民間団体により調査斜坑が起工され500m程度の掘削調査が行われたと聞いています。
なお、市として日韓トンネル構想に関与していないことから、その後の状況について把握しておりません。

出典:唐津市「日韓トンネル(令和3年3月5日、3月19日回答)」

 

デメリット・メリット

この日韓トンネルがもたらすメリット、デメリットには何があるでしょうか。

 

1930年代の朝鮮半島では、現在の北朝鮮・韓国の領地全てにおいて自由に鉄道が運行出来る状況であり、日本本土から釜山・漢城・平壌を通って、大連や奉天、ひいては北京やフィリピンなどアジア大陸とを結べる国際特急列車を運行できるメリットがありました。

しかし、現状ではそれらも設定できないなどメリットが少なく、デメリットの方が上回ることから具体化していません。

 

デメリット

建設費がバカ高い(そしてそれをペイ出来ない)
・あわせて維持費もバカ高い(そしてそれを略)
・1930年代は大陸へ線路が繋がるメリットがあったが、今は行けてもせいぜいソウルまで
・日本の治安が悪くなる
・日韓ともに経済の中心は首都圏(東京とソウル)で、両者を結ぶには鉄道は遠すぎる
・災害対策が難しい

※東京~博多は1,000kmで、現在の新幹線だと5時間
※ソウル市~釜山広域市までは325kmでKTXで3時間
※釜山広域市~博多まではおおよそ200km程度なので、新幹線を入れるとすると1時間程度

メリット

・九州圏~韓国南部とが日帰り圏内(1-2時間)になり、旅行需要が増える
・大量輸送、定時輸送が可能になる
・電力やガスの融通が可能になる

 

区間ごとの解説

ここでは、比較的近代である1980年に大林組が構想した夢のプラン(実際に工事するわけではなく、未来に含みをもたせた仮説プラン)をもとに、解説してみます。

 

唐津~壱岐(32km)

出典:大林組『季刊大林 No.7「道」、ユーラシア・ドライブウェイ構想』1980年

 

福岡県の唐津から壱岐(石田町)までの距離は32km程度と比較的距離が短いことから、ここでは最長21kmの橋梁が採用されます。

途中に小さな「加唐島」という島があり、そこを中継して壱岐まで辿り着くようです。

ちなみに現在世界最長の海上橋である中国の港珠澳大橋で49kmもあるので、技術的には可能であると思われます。

 

 

壱岐~対馬(60km)

壱岐(勝本)~対馬(安神)までは海底トンネルが採用されます。「対馬海峡トンネル」と称されるこの区間は、全長が60キロと、青函トンネルの長さとほぼ同じ。

コスト的にはかなりの費用がかかりますが、こちらも技術的には十分可能であると言えます。

ここからは青函トンネル同様に排ガスを撒く自動車の通行は不可能になり、鉄道専用となります。

 

 

対馬~韓国(50km)

出典:大林組『季刊大林 No.7「道」、ユーラシア・ドライブウェイ構想』1980年

最も問題なのがここ。日本国外に出るこの区間へは、海中トンネルを通す計画です。

海底でなく海中なのは、この辺りの地層が極めて軟弱で海底トンネルが掘削できないことが原因です。

一般的に「海中トンネル」と呼ばれるものは、実際には海底トンネルであることが大半ですが、この区間は本物の海中トンネルが構想されています。

 

しかし、海中トンネルには

・構体の腐食が常につきまとい
・あわせてテロや災害のリスクもあり
・そしてそれらに遭遇した旅客を救出する手立てがない

ことが挙げられ、これらの解決策がないことから技術的に見てもまだ実現可能なものではありません。

 

 

 

つまり、対馬までの日本国内であれば(コストはかかるにせよ)建設可能、対馬を超えると技術的・災害リスク的にも不可能となっているのが現状です。

コストはこれら全てをトータルして、構築だけで当時の価格で3兆円。そこから更に内部施設の組み上げなどの価格が追加されていくようです。

 

その他

現状、日本と韓国とだけを結ぶだけの「日韓トンネル」計画に、将来性は殆どありません。

最初に書いたように宗教団体が勝手に推進しているだけで、日本・韓国両政府とも全くやる気がありません。

 

大日本帝国時代のように、ソウルを抜けて平壌・大連・奉天へと抜けるルートが確立しているのであれば話は別ですが、北朝鮮国内で鉄道が自由に通れない現状では、これらの展望も全く見えません。

 

ネットニュースでは、煽る為か「韓国人の62%が賛成した」とされていますが、実際のところは野党の支持層の62%というだけで、与党支持層から見ると28%程度に留まるようです。

 

 

むしろ、国際連絡特急としては北海道とロシア樺太を結ぶ「宗谷トンネル構想」にやや軍配が上がります。

こちらは直通先がロシア一国なので日韓ルートよりも政情が安定しており、更に建設費の見通しも安いなど、大陸連絡鉄道としては日韓トンネルよりも現実的です。

 

まぁどのようなルートにせよ、国際特急列車がもし出来たら「この列車はシベリア鉄道から来る列車との接続を取ったため、只今2時間遅れで運行しています」…なんてアナウンスが聞ける時が来るのかもしれません。

 

 

参考文献

大林組『季刊大林 No.7「道」、ユーラシア・ドライブウェイ構想』1980年

国立国会図書館「満州国・満鉄に関する資料

 

・大東亜縦貫鉄道ニ就テ(昭和17年4月 満鉄東京支社調査室)
満鉄刊行資料 1970-1984
・大東亜縦貫鉄道関係書類(1988.3 原田勝正)
→これら目録は資料調査用。東京や海外にあるようなので、私は実際に見れてはいません。
後学の方用に、参考用として挙げておきます。

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