泉北高速鉄道の泉ヶ丘~深井間に、実は駅設置の陳情があったことをご存知でしょうか。
その名は「楢葉」(ならば)駅。場所は、ちょうど堺市中区楢葉311番地あたりになります。
「楢葉」という駅名はこのあたりの自治体が陳情として出した「泉北高速鉄道楢葉駅(仮)早期開業」が情報源です。他にも「田園(たぞの)」や「東山」駅説もあるようですが、今回の記事では楢葉で統一しています。
さて、今回はこの幻の駅である「楢葉駅」について、Web調査、文献調査、更に現場へ実地調査、更にいつもお世話になっているDSSさん、ぷにぷにさんからのお話も交えながら、可能な限り調べてみました。
電車に乗って現場を見てみる
泉北高速鉄道に乗って線路側から現場を見てみます。今回乗車したのは5000系の区間急行でした
乗車後、前面にかぶりつきます。
しばらくすると…見えてきました!
まるで島式ホームを設置するかのごとく、線路が広がっていっているのがわかります。左の信号は場内信号にもなりそうなほど位置もぴったりです。
駅のような線路のこの場所。変電所?のような建築物が見えます。
折り返し線用のスペース…でしょうか。現状では距離が短く、保線用車両用になっています。
仮に今駅を設置するなら、この部分を撤去すれば10両対応駅が設置できそうですね
そして泉ヶ丘へとまた戻っていきます。場内信号と同様に、こちらも出発信号機かのような絶妙な位置…笑
現地を訪ねる
今度は陸路から訪ねます。現場は盛土がなされているいかにもニュータウンという感じの場所でした。
東側からだとよく見えません
西側に回ります。
!
現場の下には駅改札にもなりそうなスペースがありました
「大阪広域水道企業団 田園立杭」とあります。
調べてみると、どうも水道の地下送水管に入る入口のようです。
http://www.jdpa.gr.jp/siryou_html/92html/92-02.pdf
全景。 ここに駅を建設するとすると、北大阪急行の緑地公園駅のようになるのでしょうか
地名表記。堺市中区楢葉311番地とあります。
何故出来ないのか?
いまは、名前が変わっているので、内容も変わっているかもしれませんが、当時のニュータウン鉄道補助要綱では、ニュータウン開発区域外には、既存線への接続線以外に一駅までしか作ることができなかったです。それで、深井が選ばれたという経緯だったと思います。
— DSS (@yu8910) December 12, 2017
この区域は市街化調整区域になっている為…という説があります。これはニュータウンとして設計され、開発の乱立を避けるべく、敢えて市街化させないという意味です。
ということで、その噂をもとに調べてみました。
堺市が公開している地図帳で見てみると、確かに「市街化調整区域(白色)」として比較的多くのエリアが認定されていました。駅部分自体も1/4ほどがエリアにかかっている感じでしょうか。
また他にも準防火地域や生産緑地地区などが多数で、意図的に市街地化をさせないようにしているのがわかります。
確かにこの規制のままだと駅を設置しても駅前が開発出来ないので、商業施設などが建設できずローカルな駅になってしまいそうですね。
この幻の新駅、仮に出来ていればベルランド病院や精華高校も徒歩圏、宮山台の一部も徒歩圏に入るが、それでも需要がないと判断されたのか、それとも駅間が短くなり高速運転が出来ないからなのか、真相は不明。
新駅狙いで建てたマンション、売出し当初は「将来は駅徒歩圏!」だったらしい(^-^; pic.twitter.com/edtoXspzFM— ぷにぷに (@punitter39) May 9, 2018
また、お世話になっているぷにぷにさんの話によると、開業当初はここに駅を設置する前提でマンションを建設したこともあったそうです。
【追記】フェルティメイツ泉ヶ丘というマンションのようです。(情報提供:ぷにぷに様)
深井~泉ヶ丘間「幻の新駅」、頂いた情報のまとめ。
①ニュータウン補助要項なるものがあり「ニュータウン外の途中駅は1駅」と定められた
②八田荘団地の建設が進み、要望もあって深井駅建設が決まった
③新駅周辺は市街化調整区域で開発が難しく、①の規制もあり建設が見送られた pic.twitter.com/dMNeKF9sez— ぷにぷに (@punitter39) May 10, 2018
ちなみに、この①「ニュータウン補助要項」については見つけることが出来ませんでした。あくまで噂話、もしくは手がかりとしてこちらにメモとして記載しておきます。
追記
当サイトの裏ボスである Nはるさん(@haru9629)に、このあたりの事情について詳しく教えて頂きました。
別の方が仰られている通り、たとえば多摩境駅はこの補助金を活用するため開業が遅れた例として有名です。楢葉も立地はそれに当てはまりますが、先述の通り時系列があいません。楢葉の駅構造建設は1971年ですが、補助金整備は1973年を待たねばなりません。
— N.(はるさん) (@haru9629) May 14, 2018
多摩ニュータウンでの事例でニュータウン鉄道等補助の概要を図案化しておきました。ちなみに区域外一駅というのは画像2枚めに示した多摩ニュータウンの論文から引っ張りました。3枚目はニュータウン鉄道に関する規制と泉北、北急の時系列がわかる別の論文の一文です。 pic.twitter.com/wzHPXkKlhv
— N.(はるさん) (@haru9629) May 14, 2018
・1970年に出来た千里ニュータウン、および泉北ニュータウンのアクセス路線として建設された北大阪急行や泉北高速鉄道は、大阪府の補助をもってしてもまだ経営上の負担が大きく、従来の鉄道事業の仕組みではニュータウンへの鉄道整備が進まなくなってきた
・このことから、ニュータウン鉄道等整備事業を1973年に制定(管轄は国交省及び鉄道建設公団)
この補助金を使って路線の建設が可能になる。具体的には建設費90%に対しての36%(制定当時は20%、その後30%を経て現在は36%)を国と地方自治体が折半して補助。多摩境駅は著名な例。・但し、この法令を使うとニュータウン以外では最寄り駅の1駅だけが補助対象となる。
・楢葉駅もこの法令に当てはまる(=「ニュータウン以外の駅の枠」を深井駅に用いたから楢葉駅が建設できなかった)のと思われがちだが、駅構造建設は1971年であることから、1973年に出来たこの法令には当てはまらない。
この節の参考文献:
・鉄道ジャーナル平成11年5月号
・多摩ニュータウンの整備プロセスにおける都市基盤施設の整備に関する研究 霜田宣久
・『わが国の年鉄道整備補助制度についての一考察』(正司健一、2004年)<http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/00055969.pdf>情報提供:Nはるさん(@haru9629)、なんかるさん(@nancal_2000)
今でも要望はある
(市民の声)
JRや私鉄で新駅ができたりしていますが、深井駅と泉ヶ丘駅の間に新駅を建設する予定はないのでしょうか。深井駅と泉ヶ丘駅の間には病院や住宅も多くあり、利用者が見込めると思います。(市の考え方)
ご意見いただきました泉北高速鉄道の新駅設置につきましては、多大な事業費が必要となりますので、その費用と効果や周辺環境への影響を慎重に検討する必要があると考えております。出典:https://www.city.sakai.lg.jp/city/info/_shimin/data/22694.html
現在でも楢葉駅設置要望はあるようですが、この回答に堺市は「都市計画区域」ではなく、単純に「事業費がない」ことを挙げています。
構造的にはそこまで不可能でもなさそうなこの楢葉駅。今後実現することはあるのでしょうか。
鉄道駅の設置は政治的なものでころっと状況が変わってしまうこともあります。今後に注目です。
Special Thanks
参考文献・関連リンク
深阪睦自治会「泉北高速鉄道楢葉駅(仮)早期開業」について,昭和58年8月
堺市e地図帳