阪神vs阪急「三銭事件」のメモ【電車の雑学研究所予稿】

阪神vs阪急「三銭事件」のメモ【電車の雑学研究所予稿】

かつて、宿命のライバルといわれた阪神と阪急。

そんな両者の「三銭事件」といわれたエピソードをご存知でしょうか。

当初は「電車の雑学研究所」のネタで取り上げようかと思ったのですが、もう一つ出典となる情報が見つからなかったので、後学の為に参考程度の記事としてここに書き留めておきます。

 

 

不便だった阪急のターミナル

時は昭和10年(1935年)。当時三宮までの延伸を果たしていた阪神電鉄は、次なる行先である元町への工事に邁進している最中でした。

一方、神戸進出に遅れをとっていた阪急電鉄は、当時上筒井までだった神戸側の駅を三宮へと転換。

「(交通渋滞を引き起こす)地下で乗入れて」という神戸市の申し出に対し、地下嫌いの小林一三氏率いる阪急はゴネまくり 説得を重ね、なんとか高架線での乗り入れで妥結したところでした。

 

当時の運賃は、以下の通り。

阪神…梅田~神戸間 40銭
阪急…梅田~上筒井間 40銭
国鉄…大阪~三ノ宮間 49銭

 

上筒井」というのは当時の阪急神戸線のターミナルだった駅で、六甲~西灘(王子公園)間から分岐し、北へと進んでいました。

 

ご覧のように、神戸市街地への自社線乗り入れに遅れを取っていた阪急。

しかし、既に都市化が進む三宮へいざ乗り入れようとしても、土地買収の価格が釣り上がってコストがかかってしまう状態でした。

その結果、運賃をこれまでの40銭から、3銭アップした43銭としなければ採算が取れなくなってしまいました。

 

 

43銭に

そこで、阪急は阪神に次のような申し入れを行いました。

(上記の理由で)うちはどうしても43銭にしなければならないから、阪神電鉄も43銭にあわせてほしい。

 

しかし、阪神としてははぁ?って感じの話ですよねこれ。

何故なら既にこの価格で営業出来てるんですもの。ライバルの阪急に運賃を合わせなければいけない道理はまったくないわけです。

それどころか、2月28日に「梅田~元町間で40銭にする」と、この申し入れを一蹴したぐらいでした。

今でいうところの価格カルテルにあたります。

 

 

大阪鉄道局「どうしよ」

これに困ったのが大阪鉄道局。今でいう近畿運輸局です。

どちらの言い分もわかるし、かといって既に営業できている鉄道会社に「値上げしろ」とは言いにくい。

 

…ということで、「”新規営業路線”は3銭値上げが妥当」という結論で落ち着きました。

すなわち、

・阪神は梅田~三宮が40銭、新規営業路線を含めた「梅田~元町」は43銭
・阪急は新規営業路線である「梅田~三宮」が43銭

ということで決着しました。当時の阪神社長、阪急社長を大阪鉄道局に呼んでの妥結に至ったようです。

 

 

 

阪神・阪急の戦い

この頃、阪神と阪急は70年続く歴史的なライバル関係でした。例えば「尼宝バス妨害事件」だったり「西宮戎給電妨害事件」だったり…

ただし、どちらもはっきりとした出典(証拠)がないので、ここでは参考程度に事件の内容を記載しておきます。

 

【阪急】尼宝バス妨害事件

宝塚と尼崎とを結ぶ宝塚尼崎電気鉄道(通称:尼宝電鉄)を建設する際に阪神電車がこの路線計画へ出資。

地盤の工事は出来たものの紆余曲折あって鉄道敷設は果たせなかったので、道路を流用しバス専用自動車道として整備。

阪神国道自動車(後の阪神バス)によって、バスの運行を昭和7年12月から宝塚~阪神国道西大島間で、翌昭和8年(1933年)には宝塚~大阪・梅田新道にて開始しました。

そこへ阪急はバス乗り場へ行けないようバリケードを構築して妨害したり、門戸厄神からのバス(同じく昭和8年1月18日・19日)では道を細くして通行しにくくするなどの陰湿な妨害を行った…

とされる事件です。

 

ただ、本当にあった話なのか、事実誤認や話を盛ったりしていないかの検証の余地があります。

こういったセンセーショナルな話なら必ず新聞社が食いつくはずですが、聞蔵など過去のデータベースを見ても一切記述がありませんでした。

 

 

【阪神】西宮戎給電妨害事件

一方、阪神も「やられたらやり返す」精神でこんな手に出ます。

阪急が西宮戎神社へのお参りにと作った臨時駅「西宮戎駅」がありました。

(昭和8年?)1月9日の宵戎の晩、そこから神社へ向かう道の街灯がなんと突如停電。これは、この地域において配電事業を手がけていた阪神が、阪急への妨害を企んで行ったもの…

という事件があったとされています。

ただ、こちらも本当にあった話なのか、あったとしてそれが故意のものだったかはわかりません。

 

 

両者は1つの会社に

そんなバチバチのライバルだった両者が、村上ファンドの影響で2006年に統合するなんて夢にも思いませんでした。

会社を救うためとはいえ、阪神電鉄の社長はさぞ無念だったことでしょう…。

あれから15年が経ちましたが、阪急阪神ホールディングスは業界第3位の私鉄会社として関西経済を引っ張る存在となっています。

 

関連リンク

 

 

参考文献

大阪朝日新聞「阪神阪急値上げの握手か省線側の値下げか 神戸市内乗入れをめぐる三巴の運賃合戦 神戸市乗入れ先陣争い激化」昭和11年(1936年)3月13日

阪神電気鉄道「輸送奉仕の50年」、1955年4月

橋本正夫「阪急電車青春物語」、草思社、1996年9月

レツゴー三万匹(@Retsugo)さんのツイート

 

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