財政難の京都市が「敢えて今」新車を導入する2つの理由

財政難の京都市が「敢えて今」新車を導入する2つの理由
出典:京都市交通局「地下鉄烏丸線新型車両見学会の開催について」

 

京都市の財政は、現在相当厳しい状態に来ています。 にも関わらず、「何故地下鉄へ新車を導入するのか?」と言及されている方を最近よく見るようになりました。

 

確かに「財政難」「新車投入」という相反するワードを目にすれば、そう思うのも当然のことです。

 

今回の新車導入ニュースに対して「財政難なのに大丈夫?」「けしからん!」なんて怒っておられる人がいますが、実はこれにはちゃんとした合理的な理由があります。

 

 

 

①制御装置がもう限界

烏丸線の車両には、チョッパ制御装置というものが採用されています。

これは省エネを図れる当時最先端の装置で、この当時「省エネ電車」ともてはやされました。大阪も御堂筋線の10系が、神戸でも1000・2000形が同様の装置を採用していました。

 

 

しかし、新世代の制御装置となる「VVVFインバータ」が登場して以降、チョッパ制御装置の保守部品をメーカーがどこも製造しなくなり、保守部品が枯渇しつつあります。

具体的には「大容量逆導通サイリスタ」という部品がないのです。

 

 

また、経年から来る制御装置の故障もつきまとっています。

昔の電車は構造が単純なので部品も潤沢にあり長持ちするのですが、この頃からハイテクな仕組みを導入した故に、修理が難解になったり、ICやトランジスタといった部品が製造されてなかったりするのです。

新品のフロッピーディスクやVHSビデオが、もう殆ど入手できる術がないのとよく似た構図です。

 

 

 

チョッパ制御装置を導入した鉄道事業者はどこもこの問題に頭を抱え、それぞれ対策を行っています。

大阪の場合は早めに廃車にし、余った部品を流用して保守部品を維持、神戸の場合は全車両をVVVFインバータ制御装置に載せ替えることでメンテナンスできる状態を整えてきました。

 

京都市の烏丸線についても同様で、チョッパ制御装置の電車をVVVFインバータ制御へと改造することで、大阪と同じく「余ったチョッパ制御装置の部品で他の車両のメンテナンスに備えている」状態です。

 

 

【参考】全国地下鉄のチョッパ電車

【2021年現在のチョッパ車】
・札幌市営3000形など…新車を入れて廃車
・仙台市営1000系…VVVFインバータへ改造
・東京メトロ6000系・7000系など…廃車、もしくはVVVFインバータへ改造
・都営地下鉄10-000系…廃車
・横浜市営2000系…廃車
・名古屋市営3000形…3編成が在籍(2023年度に廃車予定)
・京都市営10系…9編成が在籍
・大阪市営10系…廃車
・神戸市営1000・2000形…VVVFインバータへ改造
・福岡市営1000系…VVVFインバータへ改造

このチョッパ形式を採用している車両の中で、現在残っているのは名古屋と京都のみ。

名古屋は2023年までに全て新車に置き換える計画があるので、2024年度以降は京都のみが残ります。

 

 

また、VVVF化しても車体の老朽化は進みます。

例え制御装置を載せ替えても車体のほうが僅かしか持たないのであれば、結局載せ替えるコストの方が重くなることから新車を入れる方がトータルで見ると安くなるのです。

10系のうち、とりあえずは1981年製造の車両分だけ新車を投入して廃車にさせ、1988年以降に製造された比較的新しい車両だけを制御装置の載せ替え対象としているのは、こういった背景もあります。

 

・1981年製造(経年40年)の電車…9本
→新車(20系)へ置き換え

・1988年~1997年製造(経年33年~24年)の電車…11本
→VVVF化改造で延命させる

 

 

②ホームドア対策

現在烏丸線のホームドアは、特に利用者の多い烏丸御池駅・四条駅・京都駅の3駅でのみ導入されています。

本来、ホームドアの設置は自動停止装置(TASC)か、もしくは自動運転(ATO)や、ホームドア開閉の連動装置とセットで導入されます。

しかし、予算的な都合から現在のホームドアは自動運転ではなく、運転士さんの神技テクニックによって維持されている状態。

 

こういう全手動動作のホームドアの場合、ホームドアのない駅に停止する時と比べて時間がかかり、また乗降時間もホームドアの動作時間が必要になることから駅ごとに所要時間が30秒~1分近く増えてきます。

たかが30秒…と思うかもしれませんが、烏丸線15駅全駅に導入すると7分半も所要時間が伸びることになります。

 

つまり、このまま全手動動作のホームドア駅を増やすと、現行ダイヤでのラッシュ時運転が不可能になって混雑は更に悪化、また運転士さんの負担増にもなります。

 

撮影:ギュンシェ様

 

今のダイヤを維持したままホームドアを設置するには、京都市営地下鉄(10系20編成)・近鉄(3220系など10編成)の全車両改造が必要になります。

しかし現在の竹田車両基地では1編成づつしか車両の改造が出来ず、1年間に対応可能な編成数は限られることからこの工事が長期に渡ることは避けられません。そのために、車両改造中の代役が必要になってきます。

そこで今回、新しい20系車両を製造したわけです。

 

 

ホームドア設置とATO工事により、ワンマン運転化に対応させた際には、人件費50人分、年間3億7千万円の削減が見込めます。

今回のドア設置は総計110億円の投資なので、約30年でペイ出来ることになります。

 

 

予算は以前から組んでいる

https://twitter.com/aoigasane_06/status/1427533313829343239

京都市長の門川さんが「財政が破綻しかねない」と言い始めたのは今年、つまり2021年からです。元々京都市にあまり財政的な余裕がなかったのは事実ですが、かなり踏み込んだ発言をしたのはごく最近のこと。

一方で、こういう大きなプロジェクトは何年も前から予算を組み、段階的に実行していく必要があります。

 

今回の京都市営地下鉄の場合は、少なくとも平成29年(2017年)から既に計画・予算を組んでおり、ここで止めてしまうと上記に挙げたホームドアの設置計画や車両の更新計画全てがおじゃんになってしまいます。

また財政難になったからといって、今更新車の発注をキャンセルすると、車両メーカーから違約金が請求されることにも繋がります。

 

 

まとめ

同世代に開業した神戸市は、既に全車両を最新型へ入替えている最中です。2023年までに、烏丸線と同時期にデビューした1000形、2000形、3000形を全て新しい6000形へと入れ替えます。

 

一方、烏丸線は必要最低限の9編成のみしか導入されず、あとの編成については未だ置き換え計画がありません。ギリギリのところでなんとか動いているのです。

 

【まとめ】

・制御装置のメンテナンスが限界なので、新しい装置へ載せ替えるか新車が必要になる。
・ホームドア設置の為には、どうしても新車が必要。
・その新車も必要最低限のみの車両導入に留め、なるべく既存車両の改造で出費を抑えている。

 

京都市営地下鉄の新車について論じる時は、是非とも「こういった背景がある」ということを踏まえて話して頂けると、一地下鉄ファンとして嬉しく思います。

 

 

関連リンク

京都市交通局10系編成表-(烏丸線用)

【速報】京都地下鉄烏丸線10系、廃車陸送がスタート

【速報】烏丸線の新型車両、陸送搬入!形式名は20系?

 

 

参考文献

陳情81号 『「地下鉄烏丸線北大路駅における可動式ホーム柵の早期設置」について』、京都市交通局 平成29年10月

産業交通水道委員会資料 『地下鉄烏丸線全駅への可動式ホーム柵の設置について』、京都市交通局 令和2年3月

YouTube『なぜ急に?京都市交が烏丸線に新車を投入する裏事情・京都市営地下鉄が赤字でホームドア全駅設置&新型車両-経緯と真相-名列車でいこう』、風の谷のさてう、2021年8月18日

 

 



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