鉄道サイト「UrbanRail.Net」を運営されている、ドイツ人の地下鉄ファン「ロバート・シュワンドル」氏。嬉しいことに当サイトへもリンクをくださっています。
そんな彼が実際に日本へやってきて見聞された、日本の地下鉄事情の考察が面白かったので、皆さんにご紹介します。
はじめに
まず、ロバート氏に以下の前提ポイントがあることを記載しておきます。
・趣味の範疇は地下鉄や都市内電車がメイン
・今回の日本旅は2016年4月15日~5月に実施
・一度東京に寄った後、沖縄から北上して最後は札幌で旅を終える
・基本的にリニア地下鉄アンチ。「何故他の路線と互換性を持たせないのか」「節約も出来ないし乗り心地が悪い」「大したメリットがない」と批判
これを踏まえて、各地域へ実際に旅をされて感じたことをピックアップしていきます!
近畿
【大阪】
・大阪の長堀鶴見緑地線は「モスクワ地下鉄のような長ったらしい大げさで馬鹿げた名前」
・長堀鶴見緑地線の駅デザインはベルリンのようだ
・新しいサインシステムは素晴らしい。今はまだ本町だけしかないようだが、今後広がることを願っている
・JR東西線の西福島駅(=新福島駅?)は大阪環状線の福島駅と乗換がない。何故?僅か1ブロック先なだけなのに
・阪堺の旧天王寺駅は”東欧風”のターミナル。メルボルンのようにスタブが1つなので乗客が降りるのを待つ必要がある
まずは長堀鶴見緑地線への痛烈なパンチ(笑) 元々の経緯は鶴見緑地線から始まっているので、確かに長いですよね~…。
比喩表現として出されたモスクワ地下鉄の名前ってそんなに長いのか…と思って調べてみたところ…
・1号線「ソコーリニチェスカヤ線」
・3号線「アルバーツコ=ポクローフスカヤ線」
・7号線「タガーンスコ=クラスノプレースネンスカヤ線」
確かに長い…(笑)
また、2016年に登場したばかりの新しいサインシステムについても、高い評価がなされています。
というか、見るところが電車だけでなくサインシステムにも及ぶのは、流石地下鉄マニアですねぇ…
【京都・神戸】
・東西線は駅ごとのカラーが素敵。しかし、西端駅の太秦天神川が黄色から始まり、赤を経て最後に紫になるが、色で区別するには色が近すぎて無意味。
・六地蔵付近だけこのルールと異なってるのは「最初のアイデアがナンセンスだと誰かが彼らに伝えたのでしょう」
・神戸ポートライナーは乗り心地が少し悪く、不整地の道路を走るバスのよう
・板宿駅には木を模した壁パネルがあり、とても感銘を受けた
西日本
【広島】
・広島電鉄の雰囲気はメルボルンとよく似ている
・アストラムラインは路線図や駅構内で色分けされているが、乗っている電車から見えるのはオレンジ色のドアだけ。これはかなり不合理で、ドアそのものを塗装すべき
・新白島はアーチ状の最も素晴らしい駅だ
アトムのこれ、確かに誰か気づなかったんでしょうか…
【福岡】
・福岡地下鉄はヨーロッパの雰囲気がある
・表示器に「この電車は当駅発」と書かれているが、これは「心配しないでください、ちゃんと座れますよ」と言われているようでとても親切に見える
・各駅にある駅シンボルは本当に必要なのか疑問
・天神の地下街はとてもエレガント
・七隈線はウィーンのU4を思い起こす「グリーン」さ
・福岡地下鉄のアナウンスは女声がかなり不快だった。非常に繰り返しが多く、英語が混じった一文は同じ単調な独白の中で話されているため、理解しにくい。他では不快に感じなかったので、言語のせいではなくあの声のせいに違いない(ボロカス)
「福岡地下鉄の放送ってそんな不快だっけ…?」と思って聞いてみたんですが、抑揚が浅い高めのナレーションがあまり聴き心地が良くないように聞こえているのかもしれませんね。
【沖縄】
・沖縄モノレールは意外と混んでいる。背もたれがないので背が高いヨーロッパ人には立ち上がりづらいかもしれない
・乗り心地はモノレールとしては最高レベルにスムーズ。シアトルとよく似ていて、普通の地下鉄に匹敵する
東海
【名古屋】
・上飯田線は「これまで見た日本の地下鉄の中で最も馬鹿げた路線」
・全ての列車が名鉄犬山線を走る。何故上飯田線を犬山線へ組み込まないのか?
・オフピーク時には15分に1本しか走らないので、地下鉄というか郊外路線に近い
・桜通線は金曜19時にも関わらず10分に1本しか来ないことにがっかりした。
・鶴舞線は豊田市へ行く「トヨタの電車」
・ゆとりーとラインは「日本で今まで見た中で最も贅沢な交通手段」。ブリスベンのような毎分バスが通るのを期待してたら10分に1本しか来ない。
・リニモは乗り心地がスムーズだが、特にエキサイティングなわけでもなく、メリットがよくわからない
上飯田線へのディスが結構ひどいんですが、要は「1駅だけ開業させるなら最初から名鉄として開業させるべき」というのを言いたいようです。
利用者にとっては1駅だけで運賃制度が変わるのは不可解でわかりにくいですし、表現が大袈裟とはいえこの指摘は結構、的を射ているように思います。
東日本
【千葉・横浜・東京】
・千葉モノレールは素晴らしい。運河の上を走るので、ヴッパータールの雰囲気がある
・横浜地下鉄は名称がシンプルで良いが、ブルーラインの急行はナンセンス・東京の地下鉄は13路線あるが、世界的に見て「地下鉄」と言えるのは3路線のみ。他は郊外路線と直通している
・地下鉄の駅は清潔だが窮屈。エスカレーターが少ない
・トイレは清潔でしかも無料。トイレ天国だ。・日本人の礼儀正しさは世界的に有名だが、東京地下鉄に限っては、急に非友好的になる
・人が下車する前に電車に飛び込んだり、他人が電車を乗降するのを無視して、モバイルデバイスをじっと見つめ、邪魔になるかもしれないことをまったく考慮せず、人が通れるように少しも動こうとしない。かなり奇妙だった。
・あのフレンドリーな人々が、地下鉄に限っては突然ここまで利己的になるのかと驚いた
まず、横浜市営地下鉄の名称について「わかりやすい」と称賛されています。
確かに日本で唯一の横文字路線名で、かつ「ブルーライン」「グリーンライン」は英語圏の方からすると直感的にわかりやすいでしょう。
一方で、急行についてはナンセンスと評されていますが、これについては
数分早く移動するために、30分間隔でしか運行しない急行地下鉄を選択する人はいない。
地下鉄の大きなメリットは時刻表をほぼ見ずに乗れることだし、急行通過駅の乗客は列車間隔が長くなり、急行の通過を退避するデメリットが生じる
という点を言いたいようです。
また、東京でのラッシュ?に巻き込まれたのか、全く動こうとしない東京地下鉄の乗客に驚かれていました。
まぁ確かに以前もチラッとお話しましたが、大阪人から見てもあれは結構異様に見えます…。
【仙台】
・地下鉄のマークが「SS」なので、ドイツ人やオーストリア人にとっては別の連想をさせる(察し)
・東西線の駅デザインは美しい。換気が良すぎて寒いぐらいだった
・車両外観(2000系)は極めて醜い。内部は綺麗。
【札幌】
・3路線あるが同じ仕様なわけがない。ここは日本なのだから。
・駅は普通。可もなく不可もなく
・ただ駅入口がわかりづらい。「ST」のロゴも標識の山に埋もれて視認性が悪い。
・駅コードがJRと地下鉄とで調整して設定されてない。例えば「H」は函館線のことか東豊線のことか、わからない
・車内の案内機はかなり近代的
・南北線のシェルターは雪対策という意味では理解できるが、騒音解決にはなっておらず外観も見苦しい。プラハのような解決策の方がいい
・路面電車はホームが狭く非常に遅い。信号が多すぎる。
・東京と同じく、ただそこに立ち、道を空けようとしない。本当に蹴ったり押したりする必要があります。携帯電話を地面に投げつけたくなるような気分になる。
日本旅行も最後になった札幌。
「札幌には3路線地下鉄があるが同じ仕様なわけがない」と断言されているあたり、日本の地下鉄について随分詳しくなってこられていますね(笑)
札幌でもラッシュ時に遭遇したのか、東京と同じ愚痴をこぼされていました。
まとめ
地下鉄なども含めて、今回の日本旅行を以下のように総括しています。
・日本は「世界の国の中で最も安全に旅行出来る国」と聞いていた
・しかし、地下鉄好きなので、他の観光客が行かないような場所に行くことが多く、自分がいるべきではない環境で写真を撮ることに不安を感じたが、日本では特に咎められることがない。
・見た目が違ったり奇妙な事をしてても、誰も邪魔をせずスルーしてくれる。
・好奇心の目や驚きの表情を浮かべる人もいたが、心配は杞憂に終わった。スタッフ・警備員もスルーしてくれる。
・ベルリンでは攻撃的な人もいるので写真撮影は気をつける必要がある。・東京の項目でも書いたが、日本はトイレ天国だ。無料・清潔・数も多い。トイレを整備する法律があるに違いない
・トイレは、ヨーロッパはまるで第三世界だ。ベルリンでは、地下鉄の駅190か所のうち、トイレがある駅は1か所もないと思うし、あったとしても使いたくない状態だろう。・450ユーロでジャパン・レールパスが購入できるが、これは本当に素晴らしい制度だ
・唯一の制限は、「のぞみ」と「みずほ」にだけ乗れないこと
・新幹線の自由席は、座席が回転出来る点が米国のアムトラックと少し似ている
・福岡~大阪間では景色があまり見えない。逆に京都~東京間はよく見える。左側に座ると富士山も見える。
・新幹線は欧州の高速鉄道250km/h以下で走るが、独立したシステムの為に高速で走る。
・ICEやTGVは主要駅停車時に通常列車と一緒に走るため、非常に遅くなる。
トイレについての評価が非常に高かったのですが、ドイツの地下鉄トイレはそんなにひどいんでしょうか…。
・日本はJR会社の他、多数の私鉄がある。特に大都市圏には、誰が背後にいるのかわからない「第三セクター」企業もある。
・日本は非常に密集した鉄道網だが、一方で運賃制度は極めて断片化されており、ヨーロッパの「Verkehrsverbund」や共同運賃システムのようなものは、日本では知られていないし、おそらく理解されていない概念だろう。
・この運賃制度のせいで、東京の地下鉄が2社あることや、名古屋の馬鹿げた上飯田線のような極端な路線が出来ている
・1日乗車券は、かなり限られたネットワーク、または1つの路線でしか使用できません。ロンドンのトラベルカードやドイツの Tageskarte に匹敵するものを提供している都市はありません。
・運賃制度こそめちゃくちゃなものの、支払いは非常に簡単だ。ICカードを入手してお金をいれるだけで、同じカードを日本中で使える。この点では私達は日本より何十年も遅れている。
・運賃で問題が発生しても、殆ど全ての地下鉄入口に、喜んで助けてくれるとてもフレンドリーなスタッフがいる
…などなど、基本的には鉄道ファン、地下鉄マニアとしての評価がしっかりしており、私達日本の鉄道ファンから見るとなかなか興味深い事象が並んでいたように思います。
またそれ以外にドイツ人ならではの視点(SSとか)も見られるなど、こちらもなかなか面白いポイントが並んでいました。
Xでバズったので、こちらでもよりわかりやすいよう噛み砕いてご紹介させて頂きました。
氏のサイト・ブログは左記リンクからアクセス出来ますので、是非御覧下さい!
関連リンク
参考文献
Robert Schwandl「Robert Schwandl’s Urban Rail Blog」