最近海外の文献を読んでいると、よく「CBTC」という名称を目にするようになりました。
CBTC(Communication-Based Train Control<訳:通信を基にした列車制御>)は、ATCやATSのように列車を制御するシステムの一つで、これまでよりも効率的に運行するための新しい技術です。
端的にいうと、CBTCは、無線通信を使って列車を制御する仕組みで、信号機がいらなくなるのが大きな特徴です。
CBTCの特徴
CBTCは、鉄道の運行を管理するためにいくつかの大きな利点を持っています。
1. 列車の位置や速度を正確に把握できる
CBTCは、列車に取り付けられたセンサーと地上の通信設備を使って、列車の位置や速度を常にリアルタイムでチェックします。これにより、列車がどこにいるかを正確に知ることができ、事故や衝突を防げます。
これまでの信号閉塞システムでは、1つあたりに区切った閉塞で区切られ、列車位置はその閉塞内で大まかに知りうるだけでした。
2. 信号機がいらなくなる
当たり前ですが、従来の鉄道では信号機が必要でした。しかし、CBTCでは無線を使って列車を制御するので、信号機が必要なくなります。
これにより、信号機の設置や管理にかかる費用が減り、システム全体の効率が良くなります。
3. 列車の間隔を短くできる
最も大きなメリットはここ。
1節でも書きましたが、CBTCは列車と列車の距離を極めて正確に管理し、信号による閉塞区間の固定がない為、列車同士の間隔を短くできます。
これにより、多数の列車を効率よく運行できるようになり、混雑した路線でもスムーズに運行することができます。
こちらの動画を見るとわかりやすいですが、先頭車両が前にいても、ゆっくり近づきながら限界ギリギリまで後続車両が詰めているのがわかります。
図のように、これまでは信号によって停止限界点が定めらており、閉塞によって区切られた範囲でしか後続車両は動けませんでした。
しかしCBTCではリアルタイムで車両位置を計算するので、停止限界点は常に再算出され、限界ギリギリまで列車間隔を短くすることが出来ます。
世界一の朝ラッシュを持つ日本の鉄道にぴったりと言えるでしょう。
CBTCの導入例
世界で初めてのCBTCは、アメリカのサンフランシスコ国際空港内にある移動システム「エアトレイン」でした。現在では、世界中で導入されつつあります。
この他、実例を見てみると…
・スペイン マドリード地下鉄
・サウジアラビア リヤド地下鉄
・リスボン地下鉄
・アメリカ アトランタメトロ
・中国 武漢地下鉄1号線
・香港 MTR
・台北捷運 環状線
などなど、もはやデファクトスタンダードになりつつあるのです。
日立レールは、カナダ・トロントに導入予定の地下鉄において、次世代CBTCを導入すると表明しています。
日本では?
残念ながら日本ではまだ数が少なく、12月7日から導入された東京メトロの丸ノ内線 27.4kmが唯一の導入事例です。
東京メトロは、鉄道総研、日立製作所、三菱電機、NTTコミュニケーションズと協力し、丸ノ内線の新大塚~後楽園間の3kmで5Gを用いたCBTCの試験を行っていました。
しかしながら、今後増えていく計画はあります。
・西武鉄道 多摩川線(2024年度~ 実験)
・東京都交通局 大江戸線(2027年度)
・東京メトロ 日比谷線
・東京メトロ 半蔵門線(2028年度)
・東急田園都市線(2028年度)
また、CBTCと似たようなシステムとしては、JR東日本の埼京線や仙石線で利用されている「ATACS」があります。
JR西日本でも和歌山線で2023年春の導入を発表していましたが、残念ながら計画が見直されて採用されませんでした。
CBTCのデメリット
一見万能に見えるCBTCですが、いくつかのデメリットもあります。
1. 初期導入コストが高い
CBTCは、既存のATSやATCといった保安システムを大きく変更するため、導入にかかる初期費用が高額になります。
特に、無線通信設備や新しい列車のセンサーシステム、各種地上設備の整備が必要になります。
2. 既存システムとの互換性
CBTCは、既存の信号システムと完全に互換性がないことがあります。
丸ノ内線では、これまで運行されてきた02系ではCBTCとの互換性がないため、全列車(53編成)が最新の2000系へ取り替えられました。
53編成で550億円の費用がかかっています。
上記節で挙げた設備面の初期費用と重なりますが、車両も対応しなければならず、これが技術的にも経済的にも負担を強いることになります。
3. 技術的な課題
CBTCは無線通信を使用するので、何らかの理由でこの通信が途切れたり、電波の干渉を受けることがあります。
また、一度システムが障害を起こすと、無線通信を頼りにしているため、手動での列車制御が難しくなることがあります。これにより、システムが完全復旧するまで運行停止のリスクがあり、システムダウン時の影響が大きいと言えます。
4. 導入に時間がかかる
CBTCシステムの導入には多くの時間・準備が必要です。
現場でのテストや調整も含めると、システム全体を完全に稼働させるまでにかなりの時間がかかります。
実際、丸ノ内線の例では2016年に導入開始が発表された後、実際に導入できたのは8年後の2024年でした。
5. 逆に非効率になる時がある
これは稀な例ですが、運行司令が手動で運行管理を行っていた場合、システムの導入で逆に列車本数の間があいたりするリスクもあります。
人の視認は確実性が高いものですが、システムではどうしてもそれに劣るので、最悪のケースに備えて多少の余裕を設定する必要があります。
関連リンク
参考文献
- 東京メトロ「~日本の地下鉄用列車制御システムとして初導入~丸ノ内線に無線式列車制御システム(CBTCシステム)を導入します 」,Wayback mashine
- 東急電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社「相互直通運転を行っている東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線の信号保安システムを 2028年度に同一の無線式列車制御システムに更新します ~列車の遅延をより早く解消し、運行の安定性向上に取り組みます~」
- 国土交通省 都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC) 仕様共通化検討会「都市鉄道向け無線式列車制御システム (CBTC)仕様共通化検討会とりまとめ 」