近年、日本でも「超低床車」と呼ばれる新型の路面電車が各地へ続々と投入されています。
こういった車両をLRV(ライトレール・ビークル)と呼ばれることが多いですが、阪堺電車に投入されている1001形「堺トラム」は、その中でも「日本一上品な色合いをしてるLRV」ではないでしょうか。
厳密にはLRVと超低床車はイコールではなく、「電車より小さくバスより大きい乗り物」を総称する名称です。
しかし、昨今ではLRVやLRTを「超低床式の新型路面電車」の意味として呼称することが多く、当サイトでもそれに準じて今回はご紹介します。
大阪の都心(天王寺)側ではたまに見る存在ですが、混雑する故に車内などを撮影したことはなかったので、今回は閑散としている浜寺公園まで行ってじっっっっくりと各所を撮影してきました。
原色が多い日本のLRV
そもそも昨今投入されている日本のLRVは、どちらかというと原色が多く、「元気!」や「可愛い」などをアピールする傾向にあります。
原色系
例えば、おなじみ富山のLRV。
広島と同じく、日本で最も進んでいる路面電車都市と言えますが、使用されているカラーは比較的原色寄りです。
富山で用いられる「サントラム」は、白をベースに青・緑・黄が用いられています。
豊橋鉄道も同様に、白をベースに虹色のラインカラーを巻いています。
伊予鉄道では白とオレンジのツートンでしたが、近年はオレンジ色1色に変更されています。
同じ阪堺電車でも、自社導入した1101形は白とオレンジが用いられており、随分イメージが異なります。
【その他】
・福井鉄道F2000形、函館市交通局(白+青)
・とさでん交通(白+緑+オレンジ)
・鹿児島市電(黄色)
モダン・モノトーン
上記の原色系と異なる路線にあるのがモダン系・モノトーン系です。こちらは白と黒の二色で、近未来さを感じさせるようなデザインが多く見られます。
札幌市電のLRVでは、白をベースに黒を差し色にした車両デザインとなっています。
堺トラム
01編成「茶ちゃ(々)」
一方、堺トラムはその上記二タイプのどちらにも当てはまらない塗装が非常に魅力的です。
車体は上半分が百舌鳥の古墳群や阪堺電車をイメージした緑に、堺の茶人「千利休」をイメージした白茶のツートンになっています。
また、車体前面はシャンパンメタリック、差し色に堺刃物をイメージした黒が入った4色が交わるカラーデザインとなりました。
この上品な色使いが好評で、グッドデザイン賞を受賞しています。
地方都市の魅力を発信するために地域らしさを織り込んだ路面電車。多くの都市交通車両がモダンな方向を目指す中で、既成車両を使いつつ、堺の偉人や工芸品を色彩や素材で取り入れた手法は新鮮に映る。地元住民にとっては愛着の湧く車両となるだろうし、大阪方面からの観光客誘致のツールとしても期待が持てる。廃止が議論されていた路線を、攻めの方向で活性化しようと決断した会社の方針にも共感する。
02編成「紫おん(苑)」
第2編成の「紫おん」では緑から紫に変更され、幾分イメージが変わりました。
紫は堺市出身の与謝野晶子が好んだ色であることや、堺市の花である花菖蒲をイメージしたものとなっています。
03編成「青らん(藍)」
第3編成の「青らん」では青色に変更されました。
紫苑と同系統の色なのでこの点はあまり変わりが見られませんが、配色的にちょっと浮いている感じがあります。
青は、浜寺の海や堺市の旗の色から採られたもの、としています。
じっっっくりチェック
ということで、浜寺公園についた堺トラムをじっっっくり舐め回すようにチェックしていきます。
まずは車体から。アルナ車両製のリトルダンサーUaタイプを採用しています。前述した富山や豊橋と同じモデルです。
リトルダンサーによくあるこの3連接車タイプは、真ん中の車両が両端車に支えられて浮いているのが特徴です。
車体フォルムの様子。前面は3次曲面ガラスを採用しており、未来的なイメージの車体となっています。
編成の構成は、天王寺方から1001A-1001C-1001Bとなります。
前面ガラスから下部、ヘッドライトが格納されている部位には、曲線を基調としたラウンドフォルムを採用しています。
こちらも滑らかで優しいながらも、キリッとした顔つきになっています。
ホームと列車の段差は殆どなく、これまでの列車よりも遥かに高いバリアフリー性を獲得しています。
車内の様子。3両まるまるがフルフラットになっていて、移動も楽々です。
車内インテリアのテーマは「落ち着いた和のおもてなし空間」。
窓の高さも従来のモ601形・モ701形より大きいため、外光を大きく採光出来ています。この関係か、車内は暗めの塗装が用いられています。
車内の特徴として
・袖仕切りや天井などに木材を随所に使用
・和紙柄の化粧板を採用
・電球色のダウンライトを採用
・すだれ式のカーテンを採用
するなどして、落ち着いた「和」のLRVが出来上がっています。
シート柄には「堺更紗(さかい・さらさ)」をモチーフとしたデザインを採用。堺の歴史を感じ取れる電車となっています。
運転台の様子。
右手で操作するワンハンドル式のマスコンを採用しており、車内を見渡せるモニタも装備されています。
行先表示器にはオレンジ色のLEDを採用。3秒ごとに日/英表記が切り替わります。
デビューから10年が経過し、すっかり阪堺に溶け込んだ「堺トラム」。
少なくとも1編成は必ず動いているので、天王寺や浜寺公園にお立ち寄りの際は、是非一度ご覧になってみてくださいね。
関連リンク
参考文献
堺市「堺トラムについて」、2022年1月17日
運転協会誌「新型車両プロフィールガイド 阪堺電気軌道 1001形超低床路面電車「堺トラム」の概要」