三大都市圏の地下鉄以外では、最も規模が大きい札幌市営地下鉄。
3路線が行き交う都会ですが、昔から個性的なサインシステムが導入されています。
大阪をはじめとして、以前は名古屋・神戸のサイン解説を行いましたが、今回は札幌に焦点を当ててみたいと思います。
札幌市営地下鉄のサインといえば、黒地にゴシック4550で書かれた文字、更に自局電車を描かれたピクトグラム…なんといってもこのスタイルでしょう。
かつての大阪市営地下鉄とそっくりなことも話題となりました。
ゴシック4550が有名な札幌市営地下鉄ですが、サインで用いられたフォントは、以下の変遷を辿りました。
開業時:手書きレタリング
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東西線 新さっぽろ延伸時:見出ゴMB31/Univers
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東豊線 開業時:ゴシック4550/Helvetica
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多言語対応時(現在):新ゴB/Helvetica
順を追って時代別に見ていきます。
1971年…南北線開業時
1971年の札幌市営地下鉄開業において制定された案内標示。
この頃から既に「第1次サイン計画」というワードが用いられており、こちらの資料にキュービック&池田信との記載があることから、こちらが札幌市営地下鉄におけるサインシステムの端雄といえそうです。
路線カラーの概念がないからか、番線にはグレー地で白文字、案内部分は白地で、和文に青色、英文にオレンジ色の文字が採用されていました。
1976年…東西線開業時
サインシステムに変化があったのは、1976年の東西線の開業時。この頃に導入されたものは、背景色が黒へと変化しています。
2路線目が出来ることでラインカラーが必要となったことから、サインシステムもそれに応じて色を強調すべく黒背景になったものと見られます。
ただ、まだ完全に仕様を統一したというわけではなさそうで、このように白地に黒文字のモデルも比較的見られました。
この時代のものはまだ現存しているものが多く、例えば西11丁目駅の改札口案内(上記写真)などで見られます。
1985年…サインマニュアル制定
東豊線開業の3年前となる1985年(昭和60年)9月、札幌市交通局内にて「地下鉄案内標識設置要領」が制定されました。
大まかには
・乗車系案内標識
・降車系案内標識
・構内、乗換案内標識
・出口方向案内標識
について定められています。
また、色彩計画についてはかなり具体的に踏み込んで指示がなされています。
ア 乗車系・乗換案内標識は、南北線グリーン、東西線はオレンジ、東豊線はブルーで表示すること。
イ 降車系案内標識は、黄色で表示すること。
ウ 構内案内標識は、白色で表示すること
エ 電照標識は、原則として黒色をベースとすること。出典:2)
黒色をベースとしたサインシステムは先の項にも書いたように、東西線開業の頃には出来ていたので、それを明文化した形になりますね。
このルール制定に則って作られた駅名標がこちら。
基本的なフォーマットは現在と変化がありませんが、現在と近い4カ国語表記がない、少ないなど違いがみられます。
1986年…東西線延伸
1986年の東西線延伸時に登場したのが、この「札幌地下鉄の電車」を用いたピクトグラムアイコンです。
札幌市民のアイデンティティともいえるこの電車アイコンは、他都市ではあまり見られない非常にユニークなものです。
当初はアイコンに東西線6000形を採用し、その後南北線1000/2000形や、後に開業する東豊線7000形などへと広がっていきました。
尚、写真がないので割愛しますが、1988年までに設置されたこのタイプのサインには、
和文:見出ゴMB31
英文:Univers
が用いられていました。
1988年…東豊線開業
1988年の東豊線(栄町~豊水すすきの)開業時、先ほど言及した東西線をベースにアップデートが図られました。
先述した要領にはフォントの指示は見当たりませんが、この年代から「ゴシック4550」が採用されており、札幌市営地下鉄の世界観を確立した形となりました。
このスタイルは、かつて設置されていた大阪市営地下鉄のサインと非常によく似たスタイルで、どこか親近感を覚えます。
いや~ゴシック4550の安定感は心を穏やかにしてくれますね。古事記にも確か書いてあったと思います(書いてない)
【用いられているフォント】
和文:ゴシック4550
英文:Helvetica
1994年…東豊線 福住延伸
東豊線が、現在の福住まで延伸した際に使用されたサイン。
基本的なマニュアルはそのままですが、地下空間を忘れさせるような明るさ・暖かさを強調する為、原色に近いカラーリングを極力廃するデザインポリシーが定められました。
この関係で、従来は黒地だったサインの背景色がグレーへ変更されています。
見にくくて申し訳ないんですが、写真右上の「エレベーター」の背景がグレー地になっているのがおわかりになるかと思います。
東西線延伸時以来、長らくアップデートを繰り返して使用されてきたサインシステムは、このタイプが最後の改訂となりました。
6.現在
現在のサインシステムは、平成30年12月に初制定された「地下鉄駅案内サインマニュアル」に基づき、これまでとは抜本的にスタイルが変更されています。
表示言語の多言語化を名目として、3路線が交差する大通駅を中心に、積極的なサインシステム更新が進んでいるようです。
このサインシステムでは、概ね以下の取り決めが行われています。
・4カ国、5言語表記を基本とする
・電照式は黒地、非電照式は白地
・ピクトグラムはJIS規格である「標準案内用図記号」を原則とする
・色彩計画については以下を指定。
南北線 みどり(C100,M30,Y80、DIC-215)
東西線 オレンジ(M70,Y100、DIC-120)
東豊線 あお(C90,M30、DIC-181)
・使用フォントは以下を指定。
日本語は新ゴB、英字はHelvetica、韓国語はMalgunGothicRegular、中国語はAdbe 黒体 Std R
札幌市営地下鉄らしい、自局車両をピクトグラムとして用いるサインはこの年代で姿を消し、「標準案内用図記号」で用いられている一般的な鉄道車両を示すものに差し替えられてしまいました…。
フォントには見出しコ゚MB31が用いられています。
一方、新ゴらしきものも見られ、色使いや配色に指定はあれど、書体ははっきりと決められているわけでなさそうです。
フォントには「HGSゴシック」が用いられています。
駅名標はこのサイン計画に則り、これまで日英2か国語表記だったものが、2017年3月頃までに全駅が4か国語表記となりました。4)
基本的には非電照式ですが、大通駅など一部で電照式も採用されています。
おわりに
長文になりましたが、札幌市営地下鉄のサインシステムについて、いかがでしたでしょうか。
歴史の深い地下鉄には、様々な面白いエピソードが積み重なっており、調べるだけでもかなりのボリュームがありますね。
札幌は資料が限られているため、関係各所への資料請求など、少し骨が折れましたが、こうして記録に残すことで、後の方々の参考になればと思っています。
謝辞
記事作成に当たっては、「もみじのノート」さんの各記事を参考にさせて頂きました。
限られた文献資料の中で、豊富な写真を用いた図解や、年代別の詳細な説明が非常にわかりやすく、大変参考になりました。厚く御礼申し上げます
年表
1971年…南北線が開通
1976年…東西線が開通。黒地のサインが登場
1982年…東西線 新さっぽろまで延伸。車両マーク付サインの登場
1985年…「地下鉄案内標識設置要領」が制定
1988年…東豊線が開通
1994年…東豊線が延伸
2017年…「地下鉄駅案内サインマニュアル」制定
関連リンク
参考文献
- 札幌市交通局「地下鉄案内標識設置要領」昭和60年9月2日
- 札幌市「地下鉄駅案内サインマニュアル」
- もみじの研究ノート
- ばすすとっぷ「札幌市営地下鉄の駅名標が更新」、2017年3月23日
- 札幌市交通局管理部「さっぽろの足 写真でつづる50年」, 1977年
- 『札幌地下鉄建設物語 工事研究資料』[札幌市交通局高速電車建設本部], 1985年12月
- 『さっぽろの足 [パンフレット]』札幌市交通局/[編], 1979年
- 札幌市交通局『札幌市交通事業小史 昭和32年8月から昭和42年12月まで』日塔 聡/編 札幌市交通局, 1968年12月
- 札幌市交通局『札幌市交通事業小史 昭和43年1月から昭和52年12月まで』古川 善盛/編 札幌市交通局, 1977年12月
- 札幌市交通局『札幌市交通事業小史 昭和53年1月から昭和62年12月まで』古川 善盛/編 札幌市交通局, 1987年12月
- 札幌市交通局『札幌市交通事業小史 昭和63年1月から平成9年12月まで』 札幌市交通局事業管理部総務課/編
- 札幌市交通局事業推進部営業課『さっぽろ市営交通』
- 札幌市交通局「札幌市高速鉄道 東豊線工事記録(豊水すすきに~福住間)、平成7年3月」
- 交友社「鉄道ファン 10月特大号 特集:地下鉄50年 Vol.17 198」、1977年10月