東大阪市に本社を置く近畿車輛。日本でも有数の鉄道車両メーカーです。
そんな近畿車輛の下へ、アラブ首長国連邦のドバイからこんな依頼がやってきたのでした。
中東からの依頼
時は2009年のこと。
ドバイからこんな依頼が届いたのでした。
ミスター近畿車輛、我が都市ドバイは地下鉄を作りたいと思っている。
そこで、世界で一番美しいメトロをあなたに作ってほしい。
近畿車輛は承諾するのですが、それはそれとして
「アラブ人が思う【世界で一番美しい】ってどんな基準だ?」
というところからスタートしたのだそうです。
しかし反応は…
あれこれ試行錯誤しつつプロトタイプが完成。
いざ作ってもっていったところ、意外な反応が返ってきました。
「…なんだこの醜いコブのような出っ張りは? 醜いラクダのつもりか?」
電車の屋根上にモノが設置されているのは、あちらの美的感覚からするとナンセンスとみなされる傾向があるようです。
これ以外にも、
・外観形状は美しい。しかし色は理解できない
・高層ビルから第三軌条(=架線がない)のメトロが見えるのだから、屋根上も同じような色にすべき
・床デザインがシンプル過ぎる。モスクの床はモザイク仕上げなんだから電車もモザイク柄にしないとダメ
・↑上記部分は何がダメか聞いても答えが返ってこず、コンサルタントを雇ってやっとわかった
・女性専用車両は必須。これは宗教上の理由で既婚女性が他の男性に触れてはならないという決まりがある
こうして試行錯誤して完成したのが、現在運行されている水色と銀色の車両です。
大阪で作られた「世界で一番美しい電車(メトロ)」が、アラブ首長国連邦のドバイにあるアフマル線(الخط الأحمر)という路線で走っているのは誇らしいですね。
車両が納入されてから15年経ちますが、目立った不具合もなく運行されているようです。
近畿車輛は今回のアラブ首長国連邦のドバイ以外にも、エジプト(1962年・ヘリオポリス、カイロ地下鉄など)やアメリカ(1986年、ボストンLRV)などにも車両を納入しています。
グローバルな観点に立って仕事をするのは大変なことなのですね…。
関連リンク
参考文献
交通経済研究所「運輸と経済」 2023年10月号、「鉄道車両のデザインプロセス」、南井健治(近畿車輛取締役)
JREA「海外向け鉄道車両のデザイン」、2009年 VOL.52 、南井健治(近畿車輛取締役)