中部地方の中心駅である名古屋駅。
名鉄や名古屋市営地下鉄、そしてJR東海など名古屋界隈の鉄道が一同に介するターミナル駅です。
戦前からの歴史を持つこの駅ですが、それだけに歴史的なエピソードも豊富に揃っています。
例えば、名古屋駅の中央線7・8番ホームへと続く階段。
よくよーく端っこの方を見ると……何やら角形デザインのライトっぽいものがありますよね。
そう、まさにこれです。
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パっと見発光しそうですが、実はこれはライトではなく蓄光タイル、しかもラジウムで作られたものだそうなのです。
何のためにある?
その劣化具合を見ても、かなりの年代物とわかる代物ですね。
一説によるとこれは戦時中、灯火管制を敷いていたため、夜間に空襲があった際に駅構内が真っ暗でも蓄光した光を放って足元を照らし、乗客を避難誘導するものだそうです。
#大ナゴヤ鉄 に向けて書いた同人誌内の袋とじページに載せた、名古屋駅の蓄光タイル。
UVライトを近づけると光ります✨#こくもの pic.twitter.com/Ref8O3iSz5— 小倉沙耶 (@kokurasaya) September 1, 2023
上記のように、実際にUVライトを当てて光らせている方もいらっしゃいました。
文献がない…
ただ、戦時中の設置で情報統制が敷かれていたこともあるのか、関連する文献は現在のところ見つかっておらず、下記10個の参考文献にあたっても何ら言及はありませんでした。
ネットであれこれ探してみたところ、当時の名古屋駅で勤務されていた方の手記に、唯一こんなエピソードが残されていました。
■名古屋駅の空襲警報発令時の旅客の誘導設備の工事が始まる(3)
(中略)
我が職場では見出しの様な設備の工事が始まった。
空襲警報発令時の旅客の誘導は真っ暗闇とは行かなくて、ホームの天井にラドン管といううす暗い光を出す細長い電球を吊るし、それを一段一段の階段の両端に埋めこまれた透明ガラスで覆った蓄光塗料のレンガが、光を受けて、真っ暗闇でも淡い黄緑色に光り、旅客の安全に役たっていた。名古屋駅の全階段(新幹線の階段はない)に施されたこの設備は戦後は、くその役にも立たず(おそらく撤去費用が掛かるため)旅客にも殆ど知られることなく約53年近く取り付けたままになっている。 乗降の際、気をつけて見てください。
出典:ふっちい-zi-san、ネットツーリスト「ふっちいさんの名駅物語」、名駅ドットコム、
なるほど、当時は蓄光タイルだけでなく、その上から照明が照らされていたのですね。
長らく全ホームの階段へ設置されていたそうですが、2005年に開催された愛・地球博で名古屋駅の改修工事を行ったこともあり、2024年現在残っているのは7・8番ホームのみとなっています。
ちなみに、蓄光タイルに用いられたラジウム、およびかつて照らされていたラドン管は、いずれも放射性物質を利用したものです。
ラドン管は既になく、ラジウムを用いた蓄光タイルも既に経年によって放射性物質を全て放出しきっているそうなのです。
関連リンク
参考文献
・国鉄名古屋駅百年史
(以下協力:名古屋市鶴舞図書館)
・国鉄名古屋駅80年史
・名古屋駅を中心とした年譜
・名古屋の駅の物語 下巻
・名古屋物語
・1937年 名古屋驛の今昔
・新名古屋驛案内
・1937年「新名古屋驛 竣工特集号」 工業新報 25号
・1990年 名古屋市 市民経済局「NAGOYA発」 12号
・中経連 195号
・中日新聞 データベース
※上記文献にはいずれも言及が見られなかったとのことです。名古屋市鶴舞図書館の司書さん、ありがとうございました。