東洋電機は買収されかけていた?VVVFメーカー「日本電産」が登場してたかも【コラム】

東洋電機は買収されかけていた?VVVFメーカー「日本電産」が登場してたかも【コラム】

東洋電機製造といえば、官能的サウンドを出すVVVF装置電車のパンタグラフなどを手掛ける会社です。

鉄道ファン界隈では”製造”が略されて「東洋電機」という呼び方がなされます。

一般的な知名度はイマイチ低いですが、実は1917年の創業から100年にも渡る由緒正しき会社です。

 

東洋電機のプロフィール

当時、輸入しか選択肢がなかった鉄道電気機器の国産化を標榜として京阪出身の役員、渡邊嘉一氏が独立。

この絡みで、京阪電鉄と元々京阪グループだった新京阪鉄道→阪急京都線では、全車両で東洋電機のVVVF装置が使用されています。

東洋電機のVVVFが使用されている電車の例

・京阪7000系や3000系、13000系など
・大阪メトロ ニュートラム200系
・南海2300系
・阪急京都線 8300系や1300系
・名鉄3700系
・京成3000系
・JR西日本321系
・JR九州 303系

サウンドは丸窓電車さんの動画からどうぞ

…などなど、採用例は全国津々浦々非常に多く、どこでもその社名を見ることができる会社です。

印象的な「OK」のようなマークは、東洋電機の社紋です。

そんな東洋電機製造ですが、実は日本電産という会社に買収されそうになったことがありました。

 

いつ?

日本電産が株式公開買い付けによる買収(TOB)を提案したのは、2008年9月16日のこと。

日本電産としては、東洋電機が強みを持つ鉄道業界に将来性があると判断。

エネルギー価格の上昇や、当時流行っていた「モーダルシフト」の将来性を感じたこと、および自社で手掛けているモーター技術を鉄道にも応用出来ることから、買収すればさらなる売上拡大が見込める…との目論見でした。

 

日本電産って?

日本電産とは、京都の向日町に本社を置くモーターを製造する企業です。

ここの永守社長は経済界の有名人で、一時期「休みたいならやめればいい」発言でネットでも物議を醸しました。

この発言については、日本労働組合総連合会の高木剛会長(当時)からも批判されています。

「休みたいならやめればいい」――。日本電産の永守重信社長は23日、記者会見で「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」と持論を展開。10年間で売上高が6倍超という成長の原動力が社員の「ハードワーク」にあることを強調した。

出典:asahi.com『「休みたいならやめればいい」急成長の日本電産社長』2008年4月23日

ただし、永守社長はこの発言について「そのような事実はない」と反論しており、自社サイト上にて発信元である朝日新聞に抗議を行っています。

 

難航した買収提案

日本電産は買収(M&A)を多く手掛けて会社を大きくしていますが、これまでは被買収企業へ事前の打診・交渉など時間を掛けて行い、比較的友好的な買収を行ってきました。

しかし東洋電機だけは事情が異なったようで、何の連絡もなくいきなり買収提案をぶち上げてきたことから東洋電機の経営陣は相当な不信感を持っていたといいます。

 

更に、東洋電機の労働組合もかなりの不信感をあらわにしており、こんなリリースを出しています。

雇用の安定、労働条件の維持・向上は労働組合の至上命題であり、当労働組合は、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の実現に重きをおいてきました。会社生活と私生活・家庭生活を両立し、現在と将来において充実した人生を送ることができるよう、労働環境を整えていくことが労働組合の使命です。

これに対し、日本電産グループの公開情報および労働組合からのヒヤリング結果等によれば、日本電産が行っている従業員施策は、その一部は一時的としながらも、労働条件を後退させ、WLBの考え方を軽視するものではないかと懸念されます。また、当社取締役3会から日本電産への労務関係を含む必要情報の提供要請に対し、これらのような不安を払拭するために必要な、事実に基づく客観的なデータが、日本電産から充分に提出されたとは判断できません。

出典:東洋電機製造 1)

言うなれば、日本電産に買収されるとめちゃくちゃ働かされて勤務者が疲弊するという懸念から、東洋電機の労働組合が買収に対して猛烈な反対を表明したのです。

激務な勤務体制を敷いて投資を抑制することで利益を作る日本電産に対し、常に技術開発・投資を行い頭角を現してきた東洋電機とは根本的に企業文化の大きな隔たりがありました。

日本電産自身も2015年までは激務であったことを認めていますし、2022年時点でも労働組合がないのが何よりの証拠でしょう。

 

また、この前に出された数々の質問において、日本電産側はあまり誠意ある回答をしているとは言い難いです

例えばこれ。

(東洋電機)サンキョーのデータの中で、退職金のポイントを65%に下げたとあるが、どうなのか。
(日本電産)日本電産本体の人事部門は子会社そのものに直接関与していないので、詳細については、わからない。(中略)

(東洋電機)経営が変わると品質も変わるのではないかという声もある。この場合、顧客懸念が先行し、売上維持ができなくなるとは考えられないか。
(日本電産)本日の改題ではない。

出典:東洋電機製造  7)

 

(日本電産)シナジーは3Q6Sだけではなく、例えば共同購買等を通じ、コスト削減をはかり、本業の儲けを示す営業利益を改善して行くことが出来る。売価は、おっしゃるとおり顧客にコントロールされるが、原価はシナジーによる改善効果が大きい。汎用的な素材や電子部品など必ずシナジーがでるはずである。(中略)

出典:東洋電機製造  7)

また、やたらと「シナジー」を連発しているのですが…

 

 

技術がわかってない

先の項でも書いたように、日本電産は東洋電機を買収することのシナジー効果(2つが合わさって新しく生まれる相乗効果のこと)を謳っていますが、午後から開催された技術分野での会議で、驚くべきことが判明します。

鉄道のモーターについて何一つわかる人材が居なかったそうです。

日本電産副社長「当社には鉄道モータについて語れる人材はいないシナジーは対話の中で生まれるものであり、本日は当社の現状を説明するつもりだ。」

出典:東洋電機製造  7)

 

「シナジー効果」を買収の大義名分にしておきながら、具体的なシナジー効果については説明できない…東洋電機にとって、これは極めて無礼な態度に映ったのかもしれません。

これらのことから経営陣はもちろん、労働組合までもが共に猛反対し、取引先も反対していたそうです。

 

TOBの失敗

2008年12月18日、日本電産の永守社長は買収を撤回することを発表します。

日本電産の永守社長は会見で、「質問状に対してもすべて誠実に答えてきたが、これ以上話しても日本電産の企業価値を損なうだけだと判断した。買収拒否ありきの姿勢を見せる東洋電機製造の経営者とは一緒にやっていけないと感じた。東洋電機製造の経営陣がルールを正しく運用しようとする認識があったかは疑問だ。事前交渉なしに買収提案してきたと言っているが、ルールがあるから提案した。質問にも真摯に答えてきた。」と説明した。
東洋電機製造の買収提案への対応については、永守社長のような見方があるのは事実である。東洋電機製造の一部の株主も、635円で株式を売却するチャンスを失ったのであるから、東洋電機製造の経営陣を責める声もあった。

一方で、上記の日本電産による買収提案の撤回理由が真の撤回理由なのかという声もあった。なぜならば、2008年12月19日に日本電産は業績予想の下方修正と富士電機ホールディングスとの資本提携を見送り、また2009年1月10日にはグループ社員の賃金カットを公表したのである。(中略)

あくまで想像であるが、買収提案を撤回したのは、リーマンショックにより東洋電機製造の買収まで手が回らなくなったからではなかろうか。

出典:東洋電機製造 2)

結果的にこの買収は、東洋電機の労使双方による猛烈な反対や、本体の業績不振からもあって日本電産が諦め、現在も何も変わらず両者は操業を続けています。

 

「日本電産のVVVF]になってたかも

ちなみに、日本電産に買収されて最高益を出した企業は全て「日本電産○○」という社名に変更される習わしがあるのだそうです。

つまり、もし買収されてから最高益を出していれば、今頃東洋電機の社名が「日本電産東洋電機」になり、パンタグラフやVVVF装置に「Nidec」のマークが入るようになっていたかもしれません。

 

関連リンク

パナソニックやJR西日本を余裕で超える、大阪No.1の企業「キーエンス」という会社

 

参考文献

  1. 東洋電機製造「日本電産株式会社による資本・業務提携提案に対する当社労働組合からの反対意思表明文受領のお知らせ 」平成20年12月8日
  2. 東洋電機製造「百年を駆け抜けた技術と挑戦
  3. 日本電産「貴社との資本・業務提携のご提案について」2008年9月16日
  4. 大和総研 経営戦略研究所「2008 年下半期ガバナンス回顧④  日本電産が東洋電機製造に買収提案 」藤島 裕三、2009年1月14日
  5. リクルートマネジメントソリューションズ「モーレツから残業ゼロへ大転換 トップが火をつけ、ボトムアップで改革を加速
  6. 日本電産「朝日新聞の記事(2008年4月24日朝刊)について
  7. 東洋電機製造「インタビュー記録(労務・財務)」2008年12月11日
  8. @DIME「日本電産は車載用モーターの業績を回復し後継者問題を解決できるか?」、2022年6月5日(労働組合について記載)


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