消えかかかっているようなので、再び備忘録としてメモ。
阪急京都線用の8300系は、2002年頃からカリブ海にあるケイマン諸島の会社が保有し、阪急電鉄にリースされた経緯がある珍しい車両です。
譲渡会社の詳細
所有会社:S&H Railway Co,Ltd(日本支店名:エスアンドエイチレイルウェイカンパニーリミテッド)
本店所在地:英領西インド諸島、ケイマン諸島、グランド・ケイマン、私書箱309、ウグランド・ハウス、エム・アンド・シー・コーポレート・サービシーズ・リミテッド
譲渡対象:京都線8300系
譲渡日程:平成14年3月29日
参考URL:http://web.archive.org/web/20030918020813/www.hankyu.co.jp/ir/data/200203291N3.pdf
阪急電鉄が平成14年3月29日に発表した報道資料によると、車両を売却(譲渡)した理由は「資産保有形態を見直し」だった。鉄道路線の運営事業に専念するため、保有資産を分離して流動化するという。簡単に言うと、車両の売却によって一時的に大きな資金を調達し、長期にわたってリース料金として返していく。車両は阪急の固定資産ではなくなるので、阪急電鉄は減価償却処理が不要となり、リース料金の全額を経費に参入できる。つまり、資金調達と節税を実現できるというわけだ。
当時の日本経済新聞(2002年3月)によると、売却額は102億円。2002年3月期に特別利益として74億円を計上しています。
阪急電鉄は二十九日、鉄道車両約千三百両のうち、八十四両を同日付でカリブ海ケイマン諸島にある特定目的会社(SPC)に約百二億円で売却したと発表した。(中略)売却益七十四億円は二〇〇二年三月期に特別利益に計上する。
出典:日本経済新聞朝刊、10p、2002年3月30日付
また、今回のリースに関しては、車両(固定資産)を保有している阪急電鉄、それに阪急と馴染みの深い三井住友銀行系のリース会社(現:三井住友ファイナンス&リース)、そして米国の評価会社がそれそれ受け持ったようです。
取引で阪急は七十四億円の売却益を得た。帳簿価格は二十八億円。「せいぜい同じぐらいの値段でしか売れないと思っていた」(同社経理室)ところ。百二億円で売れた。
同業他社や金融界からも大きな反響を呼んだこの取引を持ちかけたのは三井住友銀リース(中略)
肝心の車両価格の算定は三井住友銀リースが連れてきた米国の評価会社が受け持った。当の阪急は「固定資産の譲渡に関するお知らせ」という一枚の開示資料を用意しただけ。「どういう根拠で値段が決まったのか、詳細はわからない」という。
出典:『改革者たちの苦労(3)金融の先端見えぬ実像』日本経済新聞朝刊、1p、2002年8月9日付
何故こんなことをするのか?
理由は節税のためです。
鉄道車両を自社で保有すると、帳簿上は「固定資産」として扱われます。固定資産には税金「固定資産税」がかかります。
これをケイマン諸島のS&H Railwayに持たせてそこから借り入れる形をとることによって経費として扱うとが出来、固定資産税がかかりません。更に経費なので利益を下げることが出来ます。
利益を下げると所得税も下がりますので、トータルとして節税となるのです。これは違法な脱税とは違い合法的なものです。
ちなみに、こういう話は船舶ではよくやる手段だそうですが、鉄道車両でやったのは阪急電鉄が初めてとのこと。
その後…
「もう10年以上前の話なので、今になっては詳細不明です。聞いたところですと、車両をケイマン諸島の会社に譲渡したのは、資金調達の多様性や有利子負債の抑制を目的としていたようです。ただ、契約期間は5年だったので、2007(平成19)年に当該車両は買い戻しております」(阪急広報部)
209系を見ていると鉄道車両の減価償却期間は13年だったと思いますが、5年で引き上げているところを見ると手続きが煩雑だったのでしょうか…?
…それにしても経緯はともかく、ネットにも情報がある僅か10年前のことを「詳細はわからない」というのはちょっと都合が良すぎませんか
参考ツイート
確かにあの時期は新車より5000系や3300系のリニューアルばかりでしたからね。
— (=゚ロ゚)ノ ぃ ょ ぅ (@aaaiyou) February 18, 2020
8300系の売却金額が102億円で得られた特別利益が74億円、ほぼ同時に実施された阪急電鉄から森組への支援金額が75億円なので概ね一致します。